Day by day  プロローグ        4  エピローグ

 −4−

館の内部は、火こそ放たれていなかったものの完全に破壊され尽くしていた。
研究室に一歩足を踏み入れたニーディアが目にしたのは、・・・クレアが安置されていたはずの
培養槽が無残に破壊されている姿だった。

(やっぱり・・・)

これは、館の姿を一目見たときから予想されていたことだった。
しかし、この残酷な現実を死に行くセーファスにわざわざ突きつけることはない。

(だったら・・・)

今、自分にできるせめてもの罪滅ぼしをするだけ。
ポケットから、没収したままになっていた「木竜おもしろ果物」の一つであるキイチゴを取り出した
ニーディアは、それをゆっくりと口に含んだ。これには、声を変えるという効果があった。
彼女の・・・クレアの声は今でも鮮明に覚えている。何とかなるだろう。
果物が効果を発揮するのを待って、ニーディアはゆっくりと玄関前のホールに向かった。


  *


「クレア・・・なのか?」
『ええ、そうよ。』

驚きに目を見張ったセーファスに向かって、クレアの声でニーディアは答えた。
セーファスはもう目が見えない。きっと、今自分を抱き上げているのはクレア本人だと思うはずだ。
死までの時間は既に僅かしか残されていなかったが・・・せめて、最期くらい幸せな思いをしてもらい
たかった。
これが、内心では彼を裏切っていた自分にできる、最初で最後の罪滅ぼし。自分がしていることは、
間違っていないとニーディアは信じていた。

「だが、・・・どうして。」
『全ては、あなたのお蔭よ・・・セーファス。』
「・・・そうか。そう・・・だったな。」

ここでセーファスは微かに笑ったようだった。

「なあクレア・・・君が目覚めたら、一つ・・・訊こうと思っていたことが・・・」
『何かしら?』
「・・・私が、好きか?」

(・・・セーファス様ぁっ!!)

百年の時を経て、届かなかった想い。もし、これがニーディア本人に向けての言葉であったなら・・・
どんなに嬉しかったか。
ともすれば泣き出しそうになるのを必死に堪え、ニーディアは笑顔を作ると答えた。

『ええ・・・もちろんよ。心から愛しているわ・・・セーファス。』
「そうか・・・。」

満足そうに頷いたセーファスは、それまでニーディアの方に向けていた目を閉じた。

「それを聞けて・・・これで・・・、思い・・・残すことは・・・」

セーファスの声は、どんどん小さくなっていった。最期の言葉を聞き取ろうと、口元に耳を寄せた
ニーディアは・・・思いも寄らぬ一言を耳にして驚きに目を見張ることになった。

「ありが・・・とう、・・・ニー・・・ダ・・・」
『・・・!?』

(全部・・・全部、分かってたんだ!! ・・・でも、どうして!?)

セーファスは、確かに最後に自分の名前を呼んだのだ。
何故、話をしている相手が自分だと分かったのだろうか。混乱していたニーディアは次の瞬間、その昔
・・・クレアがセーファスのことを“セーフィ”と呼んでいたことを思い出した。

(じゃあ、さっきの言葉は・・・!!)

『待って・・・逝かないで! 私、まだ・・・』

自分の気持ちを、自分の声で・・・自分の言葉であなたに伝えていない―――――。
ニーディアがそう言おうとした時には、既にセーファスは事切れていた。

(こんな・・・こんなことって・・・!!)

既に冷たくなりかけていたセーファスの遺骸を抱き締めると、ニーディアは絶叫した。

「セーファス様ぁ!! い・・・嫌あぁぁぁ!!」


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