カントリー・ロード
プロローグ
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2
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エピローグ
−1−
「はぁ・・・。」
コーセルテル外縁の崖の上にいた暗竜術士のセトは、地面に腰を下ろしたまま今日何度目かの
溜息をついた。視線の先には、コーセルテルの周囲を取り囲む険しい山々があった。

(あれは、一体どこの町なんだろ・・・)
セトが暗竜術士になったのはほんの小さな時だった。それ以来、頼れる人もほとんどないまま、脇目も
振らずに竜術士として必死に仕事をこなしてきた。預かった二人の子竜も大きく育ち、昔のことを考える
余裕が出てきた今、セトは暇さえあればこの崖に来て自分の故郷について思いを馳せるのであった。
(海・・・って、どんなだろ。この山の向こうに・・・見えるのかな)
セトの記憶は、竜術士になった八歳を境に途切れていた。それ以前について今思い出せるのは、
自分の家が坂のてっぺんにあり、その町が海のそばにあったことだけ。だが、それがどんな家で
両親はどんな人間だったのか・・・いや、そもそもそれがどこにある町なのかもはっきりしなかった。
そして、セトの記憶の中の母にはなぜかいつも「翼」があった。セトはその「母」とある約束をしたの
だった・・・
「・・・母さん。」
ふと背後から聞こえてきた声に、セトは立ち上がり振り向いた。そして、腰に両手を当てて声の主で
ある暗竜のトトを睨み付ける。
「こらぁー! 何回言ったら分かるのさ、ボクのことは『セト』って呼んでって!」
「でも・・・」
「自分より大きく育った竜に『母さん』なんて言われたってちっともうれしくない。」
トトと一緒いた光竜のココが、したり顔でトトをつつく。
「ほらみなさい。『母さん』なんて呼び方は失礼ですよね、お母様?」
「ココもだからね。丁寧にしたってダメなものはダメ!」
「え・・・。」
たちまちしゅんとなるココ。
「で? 二人そろってどうしたの?」
「もうすぐ、ご飯だから・・・呼びに来た。」
「え? もうそんな時間!?」
「そうですよ。お母・・・セト抜きの昼食なんて寂しいですからね。」
途中でセトにぎろりと睨まれて、慌てて言い直すココ。
「そう。じゃ、戻ろっか。・・・今日の当番はどっちだったっけ?」
「私です。今日は野菜をたくさん入れたシチューにしました。」
「・・・ひょっとして、ニンジンも?」
「二本入れた。」
と、トト。セトはあからさまに嫌そうな顔をした。
「うえー。入れすぎだよー!」
「あら、私たちにはいつも『好き嫌いするな』って仰っているのに。」
くすくす笑うココ。
「うー・・・分かったよ、頑張って食べるから。・・・そうだ、ご飯のあとは術道具の作り方教えるからね。」
「そうでした。ふふ、最初にできたものはセトにプレゼントしますからね。」
「おれも。」
「ま、せいぜい期待させてもらおっかな。さあ、家まで競争〜!」
「あ、セト・・・ずるいですわ!」
「・・・・・・。」
一人だけ途中から走り出した竜術士を追って、補佐竜の二人も走り出した。秋の澄み切った空気の中
色付き始めたクランガ山の紅葉が目に映える。