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ずっとそばに


 −プロローグ−

「父さ――――――――――ん!!」

村の桟橋で、暗い嵐の海に向かって少女は叫んでいた。
春先の海は危険だった。本来は一年で最も穏やかな季節のはずだったが、時に何の前触れもなく
大嵐が襲来することがあり、油断していて運悪くそれに巻き込まれた場合、海を知り尽くした漁師で
あっても無事に戻るのは困難だと言われていた。
少女の父はまだ戻らない。・・・不安で胸が張り裂けそうだった。
母が死んだのは一年前。物心ついたときには既に家にいなかった母・・・そんな母がひょっこり家に
戻ってきたのはその僅か半月前だった。長年死んだと思っていた母にどう接していいか少女が
戸惑っている間に、既に死病に侵されていた母はあっという間にこの世を去ってしまったのだった。
・・・ここで父も喪ってしまえば、少女は一人きりになってしまう。
そのとき、一際大きく盛り上がった海面が大きな波の形を取ると桟橋に向かって押し寄せた。恐怖に
目を見開く少女・・・だが、近くには掴まれそうなものは何もない。ここから海に投げ出されれば、ひと
たまりもなく溺れ死ぬことになるだろう。その場にしゃがみ込んだ少女は、目を閉じると金切り声を
上げた。

「きゃあああああっ!!」

だが、いつまで経っても波は少女の上に落ちかかってこなかった。恐々目を開いた少女が見た
ものは、その場で静止している巨大な水の壁だった。

「も・・・もしかして、あなたの・・・力なの?」

少女は、抱きかかえていた小さな子に恐る恐る問いかけた。小さな一対の角、大きな耳・・・水色の髪を
した“竜”の子は、少女と目が合うと怯えたように泣き出したのだった・・・。


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