春よ、来い  プロローグ        エピローグ

 −エピローグ− (真竜暦5036年・土竜の月1日)

「・・・それで、その春軍の人はどうしたの?」
「何でも、単身冬将軍の元へ乗り込んできて、この手帳と刀を返していったそうだ。・・・そんなことを
やってのけたのは、長い冬軍の歴史の中でもこの女だけなんだと。」
「へえ・・・あれ? これは?」

手帳をぱらぱらとめくっていたマシェルは、最後のページになったところで手を止めた。そこには、
今散ったと見間違えるような瑞々しい桜の花びらが一枚、一首の歌に添えられる形で挟まっていた。

「ああそれか。何だか分からんが、いつまで経ってもその花びらはしおれないんだ。気味が
悪いぜ・・・。」
「ふーん。」
「で、結局冬将軍は何が言いたかったんだと思う?」

ぞっとしない表情をしていたカシは、頬杖をついたままマシェルにこう問いかけた。

「うーん・・・そうだなぁ、きっと『冬には冬の、春には春の役割があるから、お互いにそれを尊重しま
しょう』ってことじゃないかな?」
「なるほどな。・・・確かに、将軍が言い出しそうなことだ。」
「あ・・・そうだ、さっきカシが言ってた不可侵条約、案外この人と冬将軍が立役者だったりするんじゃ
ないかな?」
「ああ・・・そうかもな。」

マシェルから手帳を受け取りながら頷くカシ。

「今に、条約なんてものがなくてもみんなが仲良くできるようになるといいね。」
「お前らしい発想だな・・・まあ、それはそれでいいのかも知れんがな・・・。」
「そうだよ。」

マシェルの平和ボケした発言にカシは一瞬「またか」と呆れた顔をしかけ・・・ふと表情を和らげたの
だった。





季節は、確実に春へ。今年も、桜の花は変わらずに咲くのだろう。
半世紀ほど前に消えた、名もない冬軍の想いをのせて――――――――――


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