HAZY MOON
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帰り道は、二人だった。
白みかけた空に目をやっていたアグリナが、不意に立ち止まった。訝しげに歩を止めたナータを上目遣いに見上げ、小声で尋ねる。
「一つだけ、訊いていい?」
「なんだ?」
「ナータ。あんた、あたしのこと・・・恨んでない?」
意外な問いに、小首を傾げるナータ。
「恨む・・・? ・・・なぜだ。」
「だって・・・。あたしは、あんたの最愛の竜術士を、横から奪っちゃったようなものじゃない? 付き合いだって、ずっとあんたの方が長かったんだし・・・。」
「・・・・・・。そう、だな・・・」
しばらく考える様子だったナータは、やがてゆっくりと頷いた。その横顔には、他人には滅多に見せない笑みが浮かべられていた。
「おまえのことを恨んだり、嫉妬したことはないが・・・。・・・実は、自分が男であることに、腹を立てたことはある。」
「やっぱりねえ。」
小さく肩を竦めるアグリナ。小さく舌を出すのも忘れない。
「もしあんたが女だったら、マシェルと結婚できたんだもんね。もう、こっちが恥ずかしくなるくらいラブラブのカップルの誕生よね。あたしの入る余地は、絶対になかったと思う。」
「かも・・・知れん。考えれば、惜しいことをしたな。」
「あれ? 怒らないの?」
「今更、どうなるものでもない。・・・マシェルはもう、いないんだからな。」
「そうね・・・。」
遠くから、二人を呼ぶ声が聞こえた。瞬く間に、それは二つになり、三つになり・・・やがて、子竜たちに囲まれてやってくる、マシェルの“忘れ形見”の姿が、木々の間を通して見えるようになった。
「おーい、母さーん! ナータ!!」
頷き、手を振ったナータが、前を向いたまま小声で言う。
「今日の話は、他の奴らには内緒だぞ?」
「ふふ、わかってるわよ。」
いつの間にかすっかり明けていた空は、雨季には珍しい抜けるような青空だった。
それを背景に浮かんでいた月は、朝の光に溶けるように消えていったのだった。