チーム      3       

 −3−

「・・・では、そなたはもう冬軍の職を辞したいと、こういうことなのか?」
「はい。できましたら・・・。」
「しかし、理由があろう。・・・カエデではなく、私が団長に返り咲いたことが不満なのか?」
「いえ・・・そんな、滅相もない!」

アズサに真っ直ぐに見つめられ、俯いていた四天王四番手のナギは慌てて両手を挙げた。

「では、何故なのだ。」
「・・・・・・。」
「どうした。他人には、言えぬような理由なのか?」
「・・・・・・。・・・私は、殺し合いが大の苦手なのです。」

しばらく躊躇った後、ナギはぽつりと呟いた。

「できれば、なるべく殺し合いからは身を遠ざけたい。そう思って、ここに異動となってからは兵站の
担当を申し出ました。しかしこれも、いざ戦ということになれば真っ先に敵に狙われることになります。」
「・・・・・・。」
「残念ながら、部下に回されてくるのは武力、術力共に前線に立つには不足があると判断された者が
大半です。そんな者たちが、敵に襲われたらどうなると思われますか?」
「うむ。それは、さぞかし悲惨な状態になろうな。」
「こうして冬軍に入ることができたのは、私の誇りでもあります。今だって、何かのお役に立ちたいという
気持ちに変わりはありません。しかし、殺し合いだけは嫌なのです!!」
「・・・・・・。」
「もう、耐えられないのです! これ以上部下を無駄に死なせることは、私にはできません・・・。」

拳を握り締め、俯くナギ。その様子を、アズサは暗澹たる気持ちになって見つめていた。
一度軍に入ったならば、死は常に身近に存在することになる。それに耐えられない者、そうした覚悟が
できない者は、本来軍に入るべきではなく・・・まして、時と場合によっては容赦なく部下を死地へと
追いやる必要が出てくる、指揮官にはなるべきではないのだ。
部下を殺したくない。人によっては、これを「優しさ」と評する場合があるかも知れない。しかし、戦場に
おいての「優しさ」は、平時の「優しさ」とは全く違うものなのだ。もし、このナギが本当に部下のことを
大切に思っているのならば、殺し合いを避けることを考えるのではなく、厳しい訓練を施して「戦場で
生き残れるようにする」ことが必要なのである。そうした意味でも、やはり考えに甘さが残っていることも
否めない。

(やはり、軍に残すのは厳しいか・・・)

しかし、このナギに対するカエデの評価は高かった。この冬軍にあっては珍しく温厚篤実な気性の
持ち主で、四天王でありながらそれを鼻にかけることもない。日頃から部下たちの様子に気を配り、
団の中では慕うものも多いという。みすみす放逐するには、惜しい人材だった。

「分かった。私が何とかしよう。」
「本当ですか!?」
「うむ。・・・その方、医術に興味はないか?」


  *


(・・・・・・)

頬杖をついたアズサは、ぼんやりと物思いに沈んでいた。
短時間の面接の間にも、自分の手足となるはずの部下たちが、思った以上の色物揃いであること
だけははっきりと分かった。考え方が正反対の主従に、部下の死を直視できない軟弱者。最も頼りに
なる部下は既に高齢で、実際に前線に立たせるにはやはり無理がある。・・・どう考えても、絶対的に
駒が不足しているのだ。

「あのぉ・・・。」

不意に声をかけられ、我に返ったアズサは幕舎の入り口に目をやった。そこには、ふわふわの髪を
紺のリボンで束ねた一人の少女が立っていた。

(何という格好だ・・・)

冬軍には、当然のことながら軍紀で定められた軍装がある。勤務中は支給された軍服をまとい鉢巻を
締め、冬将軍から授かった刀を身に付ける、というのがそれである。
しかし、このときの相手の格好は、それを大きく逸脱するものだった。鉢巻の代わりなのだろうか、
頭頂部に結ばれた大きなリボン。胸元には大きなブローチを着け、両腕にも紺のリボンが結ばれて
いる。辛うじて腰には刀が差されていたが、その軍服の丈も極端に短く切り揃えられており、完全に
腿の部分が覗いている状態である。
確かに、いざというときのための術力を蓄える形代として、冬軍では種々の飾りの着用が認められて
いた。しかしそれには、目立たないもの・・・軍人として相応しいもの、という条件が付けられており、
これほどの華美な装いを目にすることは稀である。
あまりの相手の場違いな格好に、眉を顰めるアズサ。しかし、その様子には気付かなかったらしい
少女は、ちょこちょこと幕舎の中に入ってくると、アズサの前でぺこりと一礼した。

「団長様、ですか?」
「ああ・・・。私がアズサだが、そなたは?」
「はい。カリンと申します。」

名乗った相手は、あどけない笑顔でにっこりと笑った。困惑した様子になったアズサが、腕を組むと
憮然とした表情を浮かべる。

「それで・・・ここに何用か? カリンとやら、ここは子供の遊び場ではない。どうやってここへ来たのか
知らんが、早々に北都へ帰るがよい。」
「え? その・・・ボク、カエデ様に言われてこちらに来たんですけど・・・。術の部隊を作るから、その
お手伝いをするように、って―――――」
「何!?」

リュネル寒気団は、四天王二番手を務めるカエデの影響もあって、他団に比べて女性の団員が特に
多い団となっていた。だが、一般的にその武力はどうしても男性の団員に比べて劣るために、特に
前線での戦闘に関しては、あまり役に立っていないことも多いのだった。
この大きな“無駄”をどう解消するか。悩んだ末に二人が出した結論が、「術を専門に遣う部隊を
編成し、後方からの支援を行う」というものだった。
他の季節の精霊と戦う際、その結果は周囲の環境に大きく左右される。もし、戦場に冬の精霊に
有利である低温を作り出すことができれば、実際に前線に立つよりも大きな役割を果たすことが
できるのだ。そのための隊長の候補を、カエデには選び出すよう命じてあった。
しかし、その候補がよりによってこの、「指揮官」という言葉とはあらゆる意味で対極の印象のある
カリンという少女なのか。目を剥いたアズサは、ややあって呆れた様子で頭に手をやった。

「つまり・・・そなたが、カエデの言っていた“団でも指折りの術力の持ち主”ということなのか?」
「はい! 武器は自信がないんですけど、術なら自信があります!」
「・・・分かった。一旦退がり、沙汰を待つが良い。」
「承知しました! 団のためにお役に立ちたいと、今までずっと思ってきたんです。ボク、精一杯頑張り
ますから、何でも言ってくださいね!」
「あ・・・ああ、うむ。期待している。」
「はい! それでは、失礼します。」

にっこりと笑ったカリンは、ここでぺこりとお辞儀をすると弾むような足取りで幕舎を出ていった。その
後姿を見送りながら、アズサは大きな溜息をついたのだった。


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