Peppermint Kiss〜ジークのエイプリルフール〜  プロローグ          エピローグ

 −エピローグ−

リュディアがエディスの家を訪ねてきたのは、すっかり日も暮れてからだった。

「悪ぃな。今日はいきなり押しかけてきちまってよ・・・。」
「それは構わないけど。一体、何があったの?」
「それが、アタシにもさっぱりわからないんだよ。」

困り果てた顔で呟いたリュディアは、手元のカップに残っていた紅茶を一気に飲み干した。
リュディアを交えての夕食が終わったのは、つい先程のこと。木竜の二人は、既にその後片付けの
ために台所に引っ込んでいた。

「昨日の夜、ちっと飲み過ぎちまってよ。いつも通り、ジークにあんたから二日酔いの薬をもらってきて
くれって、頼んだハズなんだけど・・・。」
「あら、それはごめんなさい。今日は、往診で日中は留守にしてたのよ。」
「らしいな。結局、方々を探してくれたらしくて・・・ジークが戻ってきたのは、午後も随分と回ってから
だった。」

エディスが、先を促すように頷いた。テーブルの上で手を組んだリュディアは、ちょっと横を向くような
仕草をした。

「ここからがわからねえんだよ。あいつ、戻るなり自分のベッドにもぐりこんじまってさ。なんだか知ら
ねえけど、いつまで経っても出てこねえの。」
「それは・・・確かに変ね。」
「だろ? まあ、たまには昼寝もいいか・・・と思って、そんときは放っておいたんだけどさ。晩メシ時に
なっても、ずっとそのまんまってのはさすがにおかしいだろ。」
「ええ。」
「仕方ねえから、とりあえず様子を見にいったんだ。・・・そうしたらあいつ、なんて言ったと思う?」
「?」

首を傾げたエディスに向かって、リュディアが声を潜める。

「『一人にしておいて欲しいので、夕食はどこかで適当に食べてください』だとさ。」
「まあ!」
「な、信じられねえだろ? あいつを預かってもう五年になるけど、こんなこと初めてでさ。」
「そうだったの・・・。だから、今日はうちに夕食を食べにきたのね?」
「そういうコト。・・・なあ、何か心当たりはねえかな。」
「そう言われても・・・私もエルも今日は一日、ここにはいなかったわけだし。ねえ、」

と、椅子に座ったまま、エディスは台所に向かって声をかけた。

「アル、あなた・・・何か知らない? 朝、ジーク君が訪ねてきたでしょう?」
「え? ジーク・・・?」

台所から顔を出したアルフェリアは、エディスの問いに目をぱちくりさせた。

「・・・もしかして、来てないの?」
「うん、多分・・・覚えてないけど。・・・ジークがどうかしたの?」
「ううん、いいの。ありがとう。」

台所へと戻っていくアルフェリアの後姿を眺めながら、リュディアはエディスと顔を見合わせた。

「一体、どういうことなんだ・・・?」
「ここには、来てないのかしら。でも、確かに私に薬を頼んだ・・・はずよね?」
「だと、思うんだけど・・・。ほら、朝は二日酔いでぐったりしてたからな。」

苦笑いしたリュディアが、椅子の背にもたれかかると頭の後ろで手を組んだ。そのまま、誰にともなく
呟く。

「あー・・・明日にはジークのヤツ、立ち直ってくれてるといいんだけど。ずっとこのままかもしれねえ・・・
って思うとよ、心配で夜も眠れねえよ。」
「そうよねえ・・・。」

頷き、しばらく考える様子だったエディスが、やがてリュディアの方に向き直った。

「・・・ねえリュー。こういうことなら、リカルドに相談してみた方がいいんじゃないかしら。きっと力になって
くれると思うけど。」
「実はさ、ここへ来る途中で向こうにも顔を出してきたんだよ。」
「あら。そうだったの。」
「ところがさあ。あっちじゃなぜかテラの機嫌が悪くて。アタシの顔を見た瞬間、『リカルドは疲れてる
から、他を当たってくれ』って追い返されちまってよ。」
「まあ、珍しい・・・。」
「まあいいさ。明日、また行ってみる。」

小さく頷いたリュディアが、座っていた椅子から立ち上がった。

「長いこと、邪魔したな。ジークの分のメシまで用意してくれて、本当に助かったよ。」
「いいのよ。気にしないで。」
「恩に着るぜ。・・・じゃあな。」
「ええ。」

こうして、去っていくリュディアの後姿を玄関前で見送りながら、エディスは心の中で呟いたのだった。

(それにしても・・・一体、何があったのかしら)


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