GARDEN PARTY    2           

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「おーい、来たぞー。・・・アベル、どこだー?」

ドアは、開いていた。
家の中を覗き込み、ヴェインは大声を出した。しばらくして、二階から階段をばたばたと駆け下りてきた
人影がある。

「やあ!」
「アベル!」

久しぶりに再会した二人は、笑顔でしっかりと抱き合った。
確かに、それはアベルだった。ヴェインの記憶の中にあったものと全く変わらない、跳ねた栗色の
癖っ毛と空色の瞳・・・そして、翳りのない明るい笑顔。
この暑さのせいか、頭に巻いているバンダナを除いてアベルは上半身裸だった。その所々に絵の具が
付いているところからすると、今も絵を描いていたのだろう。

「久しぶり! 元気だった? ガウ。」
「お前な・・・。苗字で呼ぶのはやめろって、昔散々言ったろ?」
「ごめんごめん、懐かしくてつい。でも、こっちの方がかわいいよ。」
「アベル!」

渋い顔をしたヴェインが、腰に手を当てた。

「にしてもだ。お前、なんつーヘンピなとこに住んでんだよ。これじゃ、他のヤツは行き倒れになっても
おかしくねえぜ?」
「へへ、いいだろ? 誰の邪魔も入らないから、絵に集中できるんだよ。」
「ったく、芸術家ってヤツは・・・これだからな!」
「なんだい、相変わらず怒りっぽいんだね。そんなんじゃ、早死にするよ?」
「ああそうだよ! おかげで、こっちは仕事を棒に振っちまったんだからな!」

傍らに置いた背負い鞄から、ヴェインはワインの瓶を取り出した。それを、アベルに向かって
突き付ける。

「ほらよ。」
「・・・これは?」
「祝いの品に、決まってるだろうが。結婚するんだろ?」
「ありがとう。でもこれ・・・高そうなワインだね。」



「聞いて驚くな、ファローゼの五〇年もの、最高級品だ。値段は六十ドレークを軽く超えてたな。」
「ろくじゅっ・・・!?」
「へん。店の伝で手に入れてやったんだ、ありがたく思えよ。」

目を剥いたアベルに向かってにやりと笑うと、ヴェインは座っていた椅子から立ち上がった。

「それはそうと・・・どうも人気がねえが、今はお前だけなのか? “花嫁”はどこだ?」
「あ・・・うん。お客さんを迎えに行ってる。」
「ふーん。・・・でもよ、いいのかよ。普通、そういうのは男のお前がやるもんじゃねえのか?」
「まあ、普通の場合だったら、ね。」
「?」

意味深な笑いを浮かべるアベル。その様子に、ヴェインは首を傾げた。

「・・・まあ、いいさ。ところで、台所はどこだ? 早速準備を始めたいんだが。」
「あっちだよ。井戸は、勝手口から出てすぐのところにあるから。」
「そうか。じゃ、俺は行くが・・・その前に、一つ聞かせろ。」
「何?」

家の奥を指差したアベルに向かって、ヴェインが言う。

「さっきの“花嫁”の話だ。・・・お前、一体誰と結婚するんだ? こんな山奥、好きこのんでくるヤツが
いるもんか。」
「そうかな?」
「そうだよ。大体、こんなところに住んでて・・・どうやって相手と知り合ったんだよ。まさか、山の精霊と
結婚します、なんて冗談はごめんだぜ?」
「あ、ガウってば鋭いね。実はね、相手は“竜”なんだ。」
「へー、そりゃめでてえな。」

笑顔になったアベルに向かって、ヴェインは小さく肩を竦めてみせた。
竜という言葉は、初めて聞くものではなかった。南北両大陸の狭間に位置するナーガ諸島には、現に
竜・・・真竜族と呼ばれる人外の種族が存在しており、長年かの地に住んでいるヴェイン自身も
そのことは知っていた。
しかし、料理店において料理人と客が顔を合わせる機会はほぼ皆無であり、結果的にヴェインは
これまで、竜を初めとする南大陸の住人と直接接したことはなかったのだった。

(竜・・・な。ま、いいだろ・・・)

どうやら、アベルには結婚相手を自分から明かすつもりはないようだった。こちらは真面目に尋ねたと
いうのに、よりによって竜と結婚するなどという冗談だ。
昔から、掴み所のない部分があると感じさせる相手ではあった。それならそれで構わない・・・いずれ、
嫌でも判ることだ。

「じゃ、また後でな。・・・あ、言っとくが台所には誰も入れるなよ。」
「わかったよ。僕は、上で絵を描いてるから。」
「おいおい。水汲みくらい手伝えよ。」

ヴェインの長い長い一日は、まだ始まったばかりだった。


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