GARDEN PARTY            6   

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こうして、最後の団体が到着したのはすっかり辺りが薄暗くなってからだった。

「もう・・・すっかり遅くなっちゃったじゃないの! ジーク、あなた同じ地竜でしょ! あの頑固じじいども、
何とかしてよ!」
「無茶を言うな、ティア。これでも、日頃から穏便に説得に務めているんだ。これ以上事を荒立てたくは
ない。」
「まあ、二人とも。いいじゃない、代わりに泊りがけでこっちに来られたんだから。」

シゼリアを含め、やってきたのは総勢五人である。その先頭に立つ恰好になっていた小柄な赤毛の
女性が、台所から顔を出したヴェインに目を留めた。

「あら。あなたが、ガウさん?」
「そ・・・そうだけど。」

微笑んだ相手が、ヴェインに手を差し出した。

「初めまして。わたしはテラ、シゼリアの古い友人です。」
「あ・・・。その、どうも。ヴェインでいいです。」
「わざわざ遠くから来てくれてありがとう。みんなを代表して、お礼を言わせてもらいます。」

相手は、まだ自分とあまり変わらない年恰好だった。だが、物静かな態度の中にも、そこはかとない
威厳が感じられる。大臣だと言ったあのシャリエやアトレーシアのように、きっと彼らの国で重要な
役職に就いているのだろう。

(ふーん・・・)

ちゃっ。
差し出された手を握ったまま、相手のことを観察するヴェイン。・・・と、その顎の下に不意に真剣が
突き付けられる。

「な・・・なに、を―――――」
「全く、いつまでデレデレしてるの。いい加減にその手を離しなさい。」
「バッ・・・! お、俺はな!!」
「何が『ヴェインでいいです』よ。仮にも竜王陛下に向かって、一介の料理人が不敬極まりないわ。」

相手は、テラの隣に立っていた長身の女だった。テラと名乗った相手より、頭一つは大きいだろうか。
細身ながら、鍛えられた逞しい体つきをしている。額には幾何学模様の描き込まれた鉢巻を締め、
その下の若草色の瞳がヴェインを睨み付けている。

「フェム姉さん! 今日は、そういうのは無しにしたいって言ったじゃない!」
「あなたが、そう言うなら・・・」

口を尖らせたテラに睨まれて、フェムと呼ばれた相手は渋々剣を退いた。鞘に剣を納めると、顎の下を
撫でたヴェインに向かって捨て台詞を吐く。

「ふん。命拾いしたわね。」
「じゃあ、竜王ってのは・・・」
「ええ、わたし。向こうではグラシノーラって呼ばれているけど、それは仕事の時の名前だから。
・・・今日は、シーザの友人の一人としてここに来たの。だから、あなたもそのつもりで接してくれると
嬉しいな。」
「あ・・・はい。」
「ありがとう。そうそう、みんなの紹介がまだだったわね。」

笑顔で頷いたテラが、一同を振り返った。

「今、あなたに剣を突き付けたのがフェム。わたしの実の姉で、今は宮廷の近衛隊の隊長をやって
もらってるの。」
「そうよ。私の使命は、竜王である妹を守ること。手を出す奴は、片っ端から―――――」
「だから、それはやめてってば!」
「ぐ・・・」
「それでね、こっちがジークリートとルクレティア。それぞれ、国の法務省と財務省の大臣で、わたしの
補佐もしてもらってるの。」
「よろしく。」

ヴェインに向かって初めに手を差し出してきたのは、テラの背後で口論をしていたうちの片方、眼鏡を
かけた長身の男だった。その名前、そして髪と瞳の色には思い当たる節がある。

「ジークリートって・・・もしかして、アトリさんの?」
「おい。」
「あがっ!」

ヴェインの何気ない一言に、相手の目がすっと細められた。同時に、握られていた手に激痛が走る。

「私の妹を、気軽に愛称で呼ぶな。」
「・・・ってえ! だってよ、本人がそう呼んでくれって・・・」
「それは社交辞令というものだ。判らないのか?」
「けどよ・・・あだだだだだ!!」
「はいはい、兄バカは程々にしてね。」

砕けんばかりの力で手を握られ、ヴェインが悶絶しかかったところへ、もう一人が割って入った。
こちらは、夏空を思わせる濃い水色の髪を具えた女性だ。



「なっ・・・ティア! 今のは―――――」
「私、ルクレティア。私のことはティアって呼んでくれて、構わないから。」

ヴェインに向かって片目を瞑ったルクレティアが、にやにやしながらジークリートの方を見る。

「同窓会の料理は、いつもは私も手伝っているのよ。だから今日は、あなたの料理がとても楽しみで。」
「あ・・・そうなんですか。」
「ええ。たまには“お客様”になるのも、悪くないじゃない?」

そう言ってルクレティアが笑ったとき、台所からフィリックが顔を出した。

「ヴェイン君。野菜が茹で上がったけど・・・」
「あ、はい! じゃ、水にさらしておいてください。」
「了解。・・・ああ、みんな。遅かったね。」
「フィリック! 久しぶり!」

一行に気付いて手を振ったフィリックに、テラが明るく応えた。その隣でいたずらっぽい表情を浮かべた
ルクレティアが、にんまり笑うと腰に手を当てた。

「あら〜・・・何よフィリック、あなたまたちょっと太ったんじゃない?」
「うるさいな。いいんだよ、食べ物がおいしいことはいいことだろ。・・・健康に気を遣って長生きする
よりは、ぼくはおいしいものを食べて太く短く生きるんだ。」
「そんなこと言って強がっちゃって。知ってるのよ〜? 結構気にしてるのは。」
「人のことを言えるのかい? そっちこそ、学生時代こっそりダイエットしてたくせに―――――」
「あーっ!! そんな昔の話!!」

血相を変えたルクレティアが大声を出したとき、庭から客間を覗き込んだアトレーシアが、
ジークリートに気付いて声をかけた。

「あ、お兄ちゃん! 庭の準備の方、手伝ってえ。」
「何だ。今回は屋外か?」
「うん。椅子が足りないから、屋根裏にあるのを持ってきてくれる?」
「いいだろう。虫除けは用意してあるのだろうな、シャリエ?」
「もちろん、ちゃんと持ってきてるわよ。ほら、そこの近衛隊隊長! ぼさっと突っ立ってないで、
こっちへ来て火をつけなさい。」
「何ですって!?」
「それとも、陛下御自らにやらせるつもり? ほら、諦めてこっち来なさい。」
「ほらほら、ケンカはやめてよね。婚礼の本番は、これからなんだからさ!」

周囲の大騒ぎを呆気にとられて眺めていたヴェインは、ここでふっと笑った。
何のことはない。気心の知れた悪友たちと、時に笑い時に衝突しながら過ごした青春時代。そうだ、
これは自分の人生の中で最も楽しかった、学生時代のノリそのものじゃないか。そこには、“竜”も
“人間”もない。単に、気が置けない“仲間”がいるだけだ。

「ヴェイン君! お湯が沸いたよ。次はどうするんだい?」
「はい! 今行きます!」

フィリックの声。自らに言い聞かせるように二度、三度と頷いたヴェインは、身を翻すと台所へと
駆け出していったのだった。


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