ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ  プロローグ  1          エピローグ

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キーンコーンカーンコーン―――――。

ここは、コーセルテルの王立竜術学院。一日の授業の終わりを知らせる鐘の音が鳴り響き、ホッとした
様子の生徒たちが思い思いの様子で帰路に就こうとしているところである。

「トレント! 今日さぁ、これからみんなで・・・」
「あ、ごめーん・・・今日もパス。」
「おい・・・最近お前付き合い悪いぜ? どうしたんだよ。」
「ちょっとね。いつか、埋め合わせはするから―――――」

級友たちの誘いを断るのもそこそこに、水竜のトレントは教室を飛び出した・・・ところで、背後から
野太い制止の声を浴びせられて束の間立ち止まった。

「トレント様! お待ちください!」

振り返ったトレントは、声の主を認めると「またか」という顔をした。

「ああ、ガウスか・・・今日はどうしたんだ?」
「トレント様。何故自分が呼び止められたのかお分かりなのに空惚けるのは、悪い癖ですぞ?」
「ありゃ・・・バレてた?」

地竜のガウスは、トレントに向かって歩み寄りながら渋い顔をして見せた。その様子に小さく舌を出す
トレント。

「今日も、湖に行かれるおつもりなのでしょう? 時にはまっすぐ帰り、どうか術士のレナ様をご安心
させて差し上げてください。」
「安心? はははっ、みんな心配性だなあ・・・大丈夫さ、大体このコーセルテルに危ない場所なんて
あるわけないだろ?」
「それはまあ、そうですが・・・」
「じゃ、そういうコトで。レナによろしくな・・・晩メシまでには帰るって言っといてくれよな!」
「あ、お待ちください・・・!」

ガウスの制止の言葉も空しく、にっこりしたトレントは再び脱兎の如く駆け出した。その後姿を呆気に
取られて見送っていたガウスは、やがて小さく溜息をつくと踵を返した。

(全く・・・トレント様のあの性格にも困ったものだ。もう少し、次期竜王候補らしく分別のついた行動を
して頂きたいものだな・・・)

現竜王である火竜グラシノーラは、高齢のためかこの年に入ってから体調が優れない日々が続いて
いた。そのため、その退位に備えて学院生の中から数名の「次期竜王候補」が選抜されていた。その
一人に選ばれたトレントは、持って生まれた類稀な術力および種族間のバランスから「最有力候補」と
目され、その目付け役として本国のロアノークから派遣されたのがガウスだった。
しかし、トレントは風竜と見紛うばかりの奔放な性格の持ち主でもあった。ガウスは、そんなトレントの
行動に日々手を焼かされていた・・・当然、本国・宮廷内でのトレントの評判もあまり良くはない。

(いや、もうじきこの様な気ままな生活を送ることも出来なくなるのだ・・・今は、望まれる様に過ごして
頂くのが一番なのだろうな・・・)

もし竜王に選ばれた場合は、恐らくその一生の大半を「竜王」という肩書きと共に生きることになる。
余程のことがない限りそれから解放されることはなく、同時に様々なものを諦めざるを得なくなるのだ。
生まれ育った思い出の場所、親しい友人たち、育ての親である術士。そして、時には恋人さえも・・・。
こうして複雑な表情になったガウスは、水竜術士レナにトレントから預かった言伝を伝えるために、
その歩を滝の方へと向けたのだった。


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