ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ  プロローグ          5  エピローグ

 −5−

コーセルテルに来てからの五百年は、悲しい記憶しかない。
周囲は私を蔑み、避けた・・・ずっとそうだった。
そして、それはこれからも変わらないだろう。

“私”を見てくれたのは、トレントだけだった。
外見や、言葉でなく・・・その中にある本当の“私”を。
・・・やるべきことは、一つしかなかった。


  *


「お待ちしていました。」

夕焼けの中、再度湖畔を訪れたガウスは、そこに立っていたアルファライラを見て我が目を疑った。
トレントがガウスに託した髪飾りを着けたアルファライラの印象は、初めて会ったときとは大きく
変わっていた。野暮ったさが消え、伏目がちで自信無さげだった印象は今やその片鱗も見られ
なかった。そして、初めて見る瞳は吸い込まれそうな深さの碧・・・夕日を映してキラキラと輝く
その瞳には、今や強い決意が宿っているのが見て取れた。
アルファライラは半ば呆然としているガウスの方に歩み寄ると、抱いていた小さな子供を差し出した。

「今日からこの湖の守護精霊は、この子です。・・・この子が一人前になるまで、見守ってやって
ください。」
「な・・・何ですと!?」
「私の持つ全てのものをこの子に託しました。きっと、立派に守護の役目を果たしてくれるはずです。」
「しかし、それでは・・・」

守護精霊は、その力によって自らの存在を保っている。“自らの持つ全ての能力を託す”とは、
すなわち自分が遠からず消滅することを意味するのだ。
“なぜ、そんなことを”・・・反駁しようとしたガウスに向かって、アルファライラは静かに首を振ると、
小さな・・・しかし決然とした声で告げた。

「心が死んだまま永い時を生きることに、何の意味があるのでしょう。・・・あなたも竜ならば、それが
分かるはずです。」
「・・・・・・。」

ガウスは黙り込んだ。
自身を育み、慈しんでくれた竜術士はもう百年以上前にこの世から去ってしまっていた。長い長い時が
経った今、その悲しみは薄れてはいたが決して消えてはいない。
恐らく、今の彼女はかつての自分と同じ気持ちを味わっているのだろう。そう、「遺される側」としての
やり場のない寂しさを・・・。

「これから、どうされるお積りか?」

沈黙を承諾と受け取り、小さく会釈したアルファライラに向かってガウスは問いかけた。

「私は・・・トレントの待つ竜都へ向かいます。・・・あの人から、聞かなければならないことが
あるのです。」
「そうか・・・。そこまでの決心なら、最早止めまい。道中の無事を、心からお祈りしている。」
「ありがとう。その子を・・・よろしく頼みます。」
「そうだ、この子の名は?」

歩き出していたアルファライラは、ガウスの言葉に振り向くと、僅かに微笑んだ。

「ライナリュート。・・・我等の言葉で、“せせらぎ”という意味です。」


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