ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ
プロローグ
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エピローグ
−エピローグ−
「そんなことがあったんですか・・・。」
「ああ。もっとも、この話は後に父に聞いたものだからな・・・私には、母の記憶はないのだ。」
「お母さん・・・。ライナさんのお母さんは、無事に竜王に逢えたんでしょうか?」
「さあな。はっきりしたことは私にも分からん。ただ・・・」
「ただ?」
「父が後見をしたという竜王は・・・後に竜都の宮廷に大きな泉を造らせたらしい。その竜王は水竜
だったというから、単なる趣味だったのかも知れないが・・・あるいは・・・」
最後は消え入るような口調でこう言ったライナリュートは、遠い目になると北東の空を見上げた。眼前に
そびえるクランガ山・・・そしてその遥か先には、彼女の母が目指したというかつての竜都ロアノークが
あるはずだった。
しばらくの間、そんなライナリュートを気の毒そうに見つめていたタクトは、やがて決心したように一つ
頷くと彼女に向き直った。
「そうだ、さっきの話だとライナさんの誕生日は・・・」
「ああ、確か今日辺りだったと思うが。」
「あたり? そんな、いい加減な。」
「仕方あるまい。寿命の心配もなく、祝ってくれる相手もいないのだ・・・私にとっては、誕生日など
意味のないものなのだからな。」
「ダメですよ、そんなこと言っちゃあ。・・・じゃ、こうしません? 明日、水竜の月一日をライナさんの
誕生日ってことにしましょう。」
「何だと?」
タクトの思いがけない提案に、ライナリュートはぽかんと口を開けた。
「な・・・何を言っている、そんな勝手に・・・」
「いいじゃないですか、はっきりした日にちは分からないんでしょう? だったら、ちょうど“水”竜の月、と
いうことで水の精霊であるライナさんの誕生日らしいじゃないですか。」
「いや、しかしだな・・・」
珍しくうろたえるライナリュートの様子を横目で見ながら、タクトは脱いでいた靴下と靴を履くと
立ち上がった。
「明日は一日、付き合いますよ。エレさんにもそう言っておきますから、待っててくださいね。」
「付き合う・・・とは、一体何を・・・?」
「何でも。さっき言ってたじゃないですか・・・年齢を当てるときに『外れた時は覚悟してもらおう』って。」
「あ・・・ああ、そ、そうだったな。うむ、覚悟しておけよ。」
「はいはい。期待してます。」
にっこりしたタクトはリコーダーを手に駆け出し・・・そして、しばらく行ったところで立ち止まると
振り返った。
「そうだ、よかったら・・・明日水竜術士の家に遊びに来ませんか? リリックに頼んでケーキを作って
もらおうと思ってるんです・・・みんなで食べたら楽しいと思いますけど!」
「か・・・考えておこう。」
「はい! それじゃ、また明日!!」
再び水竜術士の家に向かって駆け出したタクトの後姿を見送っていたライナリュートは、その姿が
見えなくなると目を閉じ・・・そして小さく呟いた。
「父よ・・・聞いているか? 遠い昔、貴方に言われた言葉の意味が・・・今、漸く分かった気がする。
『永い時を生きられることが幸せとは限らない、それを決めるのはあくまで本人の心の持ち様だ』と。
こんな・・・」
閉じていた目を開くライナリュート。その瞳が、初夏の日光を反射してキラリと光る。
「こんな嬉しい誕生日は、初めてだ・・・。」