私の人生  プロローグ          5  エピローグ

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また、同じ夢だった。
大きな帆船のデッキに立つ自分。岸壁で船を見送る人々・・・そして、手にしたリボン。

(リアの奴・・・うまく、やってくれたようだな)

微笑んだトレベスは、手元のリボンに目を落とした。
今ここに、自分がいる。つまり、この船の行き先は「あの場所」しかないということだ。そして、自分は
もう・・・この船から降りることはできない。
しかし、トレベスの心の中には、一片の不安も後悔もなかった。

「よう。」
「・・・大将!!」

不意に、背後からぽんと肩を叩かれた。振り向いたトレベスの前に立っていたのは・・・二年前に
死んだはずの水竜術士、ヴィーカだった。

「大将! どうして、ここに・・・!?」
「お前を、待ってたんだよ・・・トレベス。」
「俺を?」
「そうさ。道連れがいないんじゃ、お前も寂しいだろう。」

トレベスの肩に手を回すようにして、笑顔のヴィーカが言った。

「良かったら、後で俺の部屋に来ないか? 紹介したい奴らがいるんだ。」
「紹介? 誰だよ。」
「昔、話したろ。戦で死んだ恋人と、親友さ。」
「そっか。・・・再会、できたんだな。」

ヴィーカの言葉に、トレベスは束の間・・・嬉しさと寂しさが入り混じったような何とも言えない表情を
浮かべた。
自分の愛した相手は皆、この船には乗っていない。それが喜ぶべきことなのか、それとも悲しむべき
ことなのか・・・よく分からなかったからだ。

(・・・!)

出航の合図の、銅鑼が鳴るのが聞こえた。
船が、ゆっくりと動き出す。それにつれて、乗客たちの手にしていたリボンが次々に千切れ、海面へと
落ち始めた。
リボンの先に目を凝らすトレベス。その先には、自分が育てた四人の木竜の姿があった。皆、笑顔で
大きく手を振っている。そして、その傍らにはそっぽを向いた暗竜トトが立っている。
その瞬間、トレベスは全てを理解することができた。この船の、岸壁の・・・そして、このリボンの意味。
大きく手を振り、リボンを手放す。ヴィーカの方を振り向いたトレベスは、晴れ晴れとした顔をしていた。

「大将のときは、誰がいた?」
「お前が見たのと、同じ面子だよ。・・・俺も、随分と救われた。」
「・・・そう、か。」
「さ、行こうぜ。言っとくが、今度こそ勝ち逃げさせないからな。」
「馬鹿言え。先にいなくなったのは、大将の方だったじゃないか。」

大勢の乗客の間を縫って、甲板を二人並んで歩き出す。傍らのヴィーカに向かって、にやりと笑った
トレベスは指を突きつけた。

「せいぜい搾り取ってやるから、覚悟しろよ!」

船が、港の出口に向かう。ここに戻ることは、もう二度とない。


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