私の人生
プロローグ
1
2
3
4
5
エピローグ
−エピローグ−
すっかり憔悴しきったリアが暗竜術士の家を訪ねてきたのは、翌朝のことだった。
何事かと顔色を変えたカレルを押し留めると、トトは昨日と同じようにリアを家の裏にある崖の上へと
連れていった。
「そうか。トレベスは、逝ったんだな。」
「・・・・・・。」
無言で頷いたリアが、小さな宝石箱を差し出した。
「これは・・・?」
「遺言、だって・・・。」
「しかし・・・。いいのか?」
「トトと二人で、見てくれって・・・。」
頷いたトトは、宝石箱を受け取るとその蓋を開けた。
中には、封筒が二つ。宛名は、それぞれリアとトトになっていた。
初めに、トトはリア宛の封筒を手に取った。
『リアへ
お前がこれを読んでいるということは、事は無事済んだということか。
辛い役目を押し付けてしまって、済まないと思っている。だが、これが最後の試練だと言った俺の
言葉に、嘘偽りはない。これで、お前はどんな修羅場にも冷静に対応できる、優れた竜医になることが
できるはずだ。
その力で、たくさんの人々を救ってやれ。新しい木竜術士が来たら、お前が面倒を見てやってくれ。
よろしくな。
最後に、一つ懺悔をさせてくれ。
お前のことを家族の一員として愛していると言ったが、あれは真っ赤な嘘だ。
外界にいる間も、コーセルテルに来てからも、結局俺は恋人には恵まれなかった。だけど、それが
悔いとして残らなかったのは、リア・・・お前がいてくれたからだ。
本当はお前を、一人の女として愛していた。
もしかしたらお前は、俺のことを受け入れてくれたかも知れない。でも、また裏切られたら・・・と
思うと、怖くて本当のことは言い出せなかった。俺が一生のうちで初めから勝負を諦めたのは、これが
最初で最後だ。
昨日の夜は、余程本当のことを言おうかと思った。しかし、どっちにしてもお前にとって、俺との別れが
辛くなるだけだ。だから、そのことは俺一人の心の中にしまったまま、旅立つことに決めた。
じゃあな。
身体に気を付けて、長生きしてくれ。決して、俺の許へ来ようなんて考えるんじゃないぞ。いいな?
気持ちの整理がついたら、是非いい男を掴まえて幸せな家庭を築いてくれ。それが、先に逝く俺への、
何よりの贈り物だと思ってくれ。
お前と出逢えて、本当に良かった。
トレベス』
読み終わった便箋を、リアに手渡す。それに目を通し始めたリアの顔がたちまち歪み、頬を伝った
大粒の涙が次々に便箋の上へと落ちていった。
「トレベスぅ・・・」
「まったく・・・最後の最後まで、罪な男だな。・・・いいぞ。うんと泣いてやれ。」
「うぅ・・・うわあぁぁ・・・!!」
泣き崩れようとするリアをしっかりと抱きとめながら、トトは自分宛の封筒を手に取った。こちらは、
簡潔な文章が記されていただけだった。
『トトへ
後のことは、よろしく頼む。
リアたちの、支えになってやってくれ。お前なら、できるはずだ。
愛用のカードは、形見としてお前に譲ることにする。
今、コーセルテルの事実上の“主”はトト、お前だ。これを口実に、時には竜術士たちの家を訪ねてやれ。
お前との勝負は、いつも楽しかった。決着は、次に会えたときに付けよう。
トレベス』
(ふん・・・余計なお世話だ)
宝石箱の底には、トレベス愛用のカード一式が入っていた。
思えば、トレベスと自分はこのカードを使って、数知れぬ勝負を演じてきた。それはトトにとって、母で
あるセトと別れてからの長い歳月において・・・はっきりと楽しいと思える、数少ない瞬間だった。
感慨深そうな表情になったトトは、カードをローブのポケットにしまった。そして、先程からずっと泣き
続けているリアを優しく抱き締める。
(さらばだ・・・トレベス)
リアの泣き声が辺りに谺し・・・そして、静かに消えていく。まるでそれは、コーセルテルを取り巻く
山谷までもが、木竜術士との別れを悲しんでいるかのようだった。