WINTER WONDERLAND〜冬の都へようこそ!〜
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「さ、着いたぜ。」
センジュの声に、地面に降り立ったミズキは固く閉じていた目を恐々と開いた。
「うわぁ・・・。」
冬の都は、確かに彼女の目の前に存在していた。感嘆の声を上げ、二歩・三歩とその場から踏み
出したミズキは、センジュのことも忘れて辺りの景色に見入った。
ミズキとセンジュが立っていたのは、幅が百リンクはあろうかという大きな通りだった。通りの右手は
白を基調とした土塀、そして左手にはかなりの幅の濠があった。濠には所々に橋が架けられており、
その内側には必ず門がある。どうやら、そちら側が町の中心部らしい。
通りは見渡す限り続いており、多くの人々の姿があった。町並みや服装こそ見慣れない様式では
あったが、通りを行き交う人々の様子は、ミズキが故郷で普段目にしているものと同じだった。老若
男女を問わず、ある者は笑い・・・そしてある者は諍いながら通りを歩いてゆく。そう、当たり前のように
空に浮かんでいる数名の姿を除けば、その佇まいは人間の町と何ら変わるところはないのだった。
通りを行き交う人々は、その全てがセンジュと同じ髪の色をしていた。恐らく、その全てが彼と同じ
“冬の精霊”ということになるのだろう。たちまちのうちに周囲からの好奇の視線に晒されたミズキは、
一人だけ防寒具に身を固めた自分がここの住人ではないことを改めて認識させられ、何となく居た
たまれない気分になった。
「よう、感想はどうよ。」
背後からかけられた声に、ミズキは我に帰ると振り向いた。そこには、にやにやしながら彼女のことを
眺めているセンジュの姿があった。
「あ、うん。・・・こんな普通の町だとは思わなくて。」
「あん? どういう意味だよそれ。」
「“冬の都”って言うから・・・もっと雪と氷ばかりだと思っていたの。」
「ああ、そういうことか。」
通りに、雪はなかった。「冬の都」という言葉から、もっと寒々しい光景を思い描いていたミズキに
とって、それは驚くべきことだった。
頷いたセンジュは、通りの右手にある土塀の方を指差した。
「見ろよ・・・ほら、道端には濠があるしな、木も植わってるだろ。」
土塀の向こう側には、確かに緑が見えた。その樹形から、ミズキの故郷でもお馴染みの針葉樹である
ことが分かる。
「あんまり寒いとな、木が育たないんだよ。・・・別に“絶対に必要だ”ってワケじゃないんだが、やっぱ
雪と氷ばっかじゃ寂しいしな。」
「そうなの。」
「ああ・・・濠だってそうさ。あれに全部氷が張ってたんじゃ、サマにならないだろ?」
言われてみればその通りである。今までミズキが当たり前だと思っていた都市の景観は、ある程度の
気温がないと維持できないのだ。
納得した様子のミズキに向かって、ここでセンジュは声を潜めた。
「それにな、もっと大事な理由があるんだよ。」
「え?」
「・・・あんまり寒いとな、鼻水が凍ってツララになっちまうんだ。」
「は・・・はあ!?」
「あれは辛いもんだぜ? ま、経験がないと分からんだろうけどな・・・。」
仮にも、冬の精霊である。そんな彼らが、冬の都を程々の寒さに保っている一番の理由が・・・よりに
よって鼻水だというのか。
意外な告白に目を白黒させているミズキに向かって、ここでセンジュはにやりとしてみせた。
「・・・なーんてな。」
「・・・! もう、センジュ!!」
「はっはっは。そう怒るなよ。」
からかわれていたことに気付き、センジュを叩く仕草をするミズキ。屈託なく笑ったセンジュは、軽く手を
上げるとミズキを宥めた。
「さ、行くぜ。ついて来いよ。」
「え? 行くって・・・どこへ?」
「オレんちだよ。ずっとその荷物を背負ってるのも何だろ?」
「えー!?」
先に立って歩き始めていたセンジュは、ミズキのこの素っ頓狂な声にがくんとつんのめった。
「なんだよ、その『えー!?』ってのはよ。」
「センジュ、あなた・・・家があるの!?」
「おいおい・・・こりゃゴアイサツだな。橋の下ででも生活してると思ってたのか?」
「ううん、そういう意味じゃなくて・・・。精霊っていうから、家なんて必要ないのかと思ってた。」
「ああ、まあ・・・オレは年中向こうに出ずっぱりだからな。実際はほとんど帰ったことはないんだが、
一応団長配下の側近ってコトになるだろ。それなりの屋敷も与えられるってワケさ。」
「へえ・・・。なんだか、そういうところは私たち人間と変わらないのね。」
「ああ、そうかもな。」
とりとめのないないことを話しながら、通りを折れつつ二十分ほど歩く。やがてセンジュが足を止めた
のは、大きく立派な門の前だった。