WINTER WONDERLAND〜冬の都へようこそ!〜
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「おう、着いたぜ。ここがオレの家だ。・・・先に言っとくが、『こんな立派だと思わなかった』ってのは
ナシだぜ?」
「今、そう言おうとしてたところ。」
「ぬかせ。・・・いや、オレもこんな立派なもんはいらんって団長に言ったんだけどな・・・」
ミズキの正直な言葉に、センジュはぼやきながら門をくぐろうと一歩を踏み出した。と、彼の目の前に、
悲鳴とともに屋敷の中から数人の精霊が転がり出てきた。
からんからん・・・と、木刀が地面に転がる乾いた音が辺りに響く。
「何、どうしたの?」
「まさか、歓迎の儀式ってワケでもなさそうだな。・・・オイ、しっかりしろ。」
手近な一人の前に屈むと、声をかけるセンジュ。ぼんやりとセンジュのことを見つめていた相手は、
ややあってその瞳を驚愕に見開いた。
「お・・・お館様!?」
「オイ、その呼び方はやめろって言ったろ。」
「も・・・申し訳ありません! ですが、どうして・・・今はまだ霊峰の守備の任がおありのはず。・・・
まさか、何か大事では・・・っ!?」
「ああいやいや、ちとヤボ用でな。」
「はっ・・・野暮用、ですか。」
「ああ。・・・それより、何かあったのか?」
「それが・・・」
慌てて平伏した相手が、状況を説明しようとしたとき・・・当の“騒動の種”が門のところに姿を見せた。
「おう、センジュか。ちょうどいい、お前が相手をしろ。」
センジュに向かってふんぞり返ったのは、ふてぶてしい面構えの少年だった。
外見はまだ十歳になるかならないかに見えるその少年は、手にしていた木刀をセンジュに向かって
突き付けた。
「お前の部下は弱すぎる。三人がかりでもこのザマだ・・・これじゃ、ウデがなまっちまう。」
(何、あの子・・・)
本人は精一杯偉ぶって見せているのだが、その尊大な台詞と幼さの残る声が何ともアンバランスで
微笑ましい。傍でその様子を見ていたミズキは、思わず吹き出した。
「センジュ、あの子は・・・?」
「ああ、カシと言ってな。霊峰出身ってことでオレが預かってるんだが・・・見ての通りのやんちゃ
盛りでよ。どうにもこいつらじゃ手に負えないらしい。」
まだ呻きながら地面に転がったままの部下たちを眺め、センジュは溜息をついた。次いでミズキに
向かって小さく肩を竦めると、カシに向き直る。
「仕方ないな。・・・よし、かかってこい。」
「んだと? 武器も持たねえで、どうするってんだ。それくらいは待ってやるぞ?」
「言っただろう、カシ。戦場では何が起こるか分からないってな・・・これから、武器を使わない
戦い方ってのを教えてやる。まあ、もっとも・・・」
ここで、センジュは大袈裟に肩を竦めると鼻で笑ってみせた。
「お前程度に、武器などそもそも必要ないがな。」
「言ったなぁぁぁ!!」
顔を赤くしたカシが、センジュに斬りかかる。
その太刀捌きの鋭さは、剣については素人のミズキにもはっきりと判るものだった。どうやら、あの
大口を叩くだけのことはあるらしい・・・しかし、その全てをセンジュは苦もなくかわしていく。
「どうした、そんなへっぴり腰じゃ当たるもんも当たらんぞ!」
「くそっ・・・ちょこまかと!!」
「ははは、いい加減諦めたらどうだ・・・ッ!?」
と、ここまで軽快にカシの木刀をかわしていたセンジュが、何かにけつまずいて仰向けに倒れた。
(危ない!)
両手を口元に当て、息を呑むミズキ。チャンスと見たカシは、木刀を大上段に振りかぶると、倒れ
込んだセンジュに向かって飛びかかった。
「もらったあぁぁ!」
次の瞬間・・・悲鳴を上げて地面に叩きつけられたのは、センジュではなくカシの方だった。
振り下ろされた木刀を掴んだセンジュが、その勢いを利用してそのままカシを背後へと投げ飛ばした
のだ。逆さまになったまま「信じられない」といった表情を浮かべているカシの喉元に、木刀が突き
付けられる。
「どうだ。不利だと見せかけて、相手の手を限定する・・・こういう戦い方もあるんだぞ?」
「う・・・ぐっ、卑怯だぞ!」
「上等だ。斬られた後でもそんなことが言えたらいいがな。」
「ち・・・ちくしょー! 覚えてやがれ!!」
「あ・・・カシ様! お待ちください!」
真っ赤な顔に悔し涙を浮かべたカシは、立ち上がるなり捨て台詞を残して建物の裏手へと走って
いった。慌ててセンジュの部下がその後を追う。
ことの顛末を、口をぽかんと開けて見ていたミズキの方を振り返ると、センジュは何事もなかったかの
ように言った。
「さ、荷物置いたら城へ行くぞ。思わぬ騒動で時間食っちまった。」
「城?」
「聞いて驚くなよ、これからこの都一番のお偉いさん・・・冬将軍のところへ行くんだからな。」
「え・・・えええ!?」
「んな声出すなよ。この都に人間が来ることは滅多にないんだ・・・どうせ将軍もヒマだろうしな、ちょうど
いいさ。」
「・・・・・・。」
まるで、この都の支配者のことをごく親しい友人のように話すセンジュ。先に立って門を出て行く後姿を
追いかけながら、ミズキは目をぱちくりさせたのだった。
(センジュって・・・本当に、底が知れないわ・・・)