WINTER WONDERLAND〜冬の都へようこそ!〜
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「団長、いますか・・・」
「馬鹿者!!」
部屋に入るなり、裂帛の気合いを込めた怒声を浴びせられ、センジュとミズキは思わず首を竦めた。
冬の都の中心部に聳える城。真っ直ぐに冬将軍のところに向かうと言っていたセンジュが、「ちょっと
寄り道な」とミズキを連れてきたのがこの部屋だった。
中には二人の人物がいた。一人はミズキとそう歳の変わらない小柄な女性で、自分より頭一つは
大きい男性と向かい合って立っている。恐らく、先程の怒声はこの相手に向けられたものなのだろう。
「日頃から、あれ程軍令の確認を怠るなと言っているだろう!」
「ははっ! め・・・面目次第もございません!!」
「ミズメ、貴様がいくら謝ったところで失われた命は戻らん! 本来なら手討ちにするところ
だが、今回は冬将軍の取り成しに免じてこれで勘弁してやる・・・」
ここまで言った女性は、鞘に収めたままの刀を振り上げると、
「歯を食いしばれ!!」
と相手の頬を盛大に張り飛ばした。
(い・・・痛そう・・・)
ミズキは思わず両手で目を覆った。だが、これは大して珍しいことでもないらしく、センジュはこの
光景をにやにやしながら眺めているだけである。
「いやー・・・相変わらず派手ですねえ。」
「む?」
センジュの声に振り向いた女性は、僅かに驚いた表情を浮かべた。
「おや、誰かと思えば・・・。」
「ご無沙汰しておりました。アズサ団長には、ご機嫌麗しく・・・」
「挨拶はよい。それより、どうしたのだ? 普段であれば、私の呼び出しにも何だかんだと理由を付けて
戻らないお前が、自分から都に戻って来るなど・・・。」
「団長、それは言いっこなしですよ。いえね、珍しい客人を連れてきてるんで、これから冬将軍の
ところへ・・・と思ってるんですが。その前に、団長にもご挨拶を・・・と思いましてね。」
「客人だと?」
決まり悪そうに頭を掻いたセンジュは、自分の背後で小さくなっていたミズキの方を振り返った。
アズサにじっと見つめられたミズキは、慌てて小さく頭を下げた。
「ほう・・・人間ではないか。ああ、固くならずともよい・・・別に、とって食ったりはせんからな。」
「またまた。団長、心にもないことを・・・うぐっ!」
宥めるように片手を上げたアズサは、ミズキに向かって微笑んだ。顔に浮かんでいた厳しいものが
消えると、先程よりさらに若い印象を受ける。
横でわざとらしく肩を竦めてみせたセンジュの脇腹を殴り付けると、アズサはミズキに向かって手を
差し出した。
「冬の都、北都へようこそ。私はアズサ。もう、このセンジュから聞いているかも知れんが・・・冬軍に
四つある寒気団のうちの一つ、リュネル寒気団の団長を務めている。」
「は・・・初めまして。私は、ミズキといいます。」
「ミズキだと・・・?」
ミズキの答えに驚いた表情を浮かべたアズサは、隣で痛そうに脇腹を押さえていたセンジュの方を
振り返った。
「おいセンジュ。ひょっとして、この娘が・・・?」
「ええ、そうですよ。・・・おおいて、ちっとは手加減してくれたって・・・」
「ふむ。そうか・・・。」
恨みがましいセンジュのぼやきを完全に黙殺したアズサは、改めてミズキを頭のてっぺんから爪先まで
じっくりと眺め・・・最後に寂しそうな表情をふっと浮かべた。
「・・・なるほど、もう決めたのだな。・・・では、すぐに冬将軍の許へ行くがよかろう。」
「お、団長のおメガネにかないましたかね?」
「やかましい。お前の趣味も捨てたものではないと思っただけだ。」
「そいつはホメ言葉ですよね? いやー、団長が人をホメるなんて珍し・・・ぐえっ!」
「さっさと行け!」
(一体・・・何の話?)
二人の会話についていけず、ミズキは目を白黒させた。アズサの容赦のない一撃に再び悶絶した
センジュは、そんなミズキに合図をするとアズサに軽く頭を下げた。
「それじゃ、オレたちはこれで。」
「そうだな。冬将軍も、きっと喜ばれるだろう。」
頷くアズサ。部屋を出かけたセンジュはその入り口で立ち止まり、アズサの方を振り返った。
「そうだ、団長・・・一つお願いがあるのを思い出しました。」
「ほう、何だ? 言ってみろ。」
「今、オレの屋敷にカシっていうガキがいるんですが・・・こいつがまた腕白で、どうもオレの部下じゃ
手に負えないんですよ。」
「それで?」
「ってことで、一つ団長にその根性を叩きなおしてもらいたいんですが。」
「つまり、私にその子を預かれと・・・こう言うのだな?」
しばらく考えていたアズサは、ややあって頬を歪めると頷いた。
「よかろう。確かに・・・一年中霊峰の守備の任があるお前には、如何ともし難いであろうしな。」
「やった! 恩に着ます、団長・・・」
「ただし!」
目を輝かせたセンジュに向かって、アズサは指を突き付けた。
「もちろん、こちらからの条件も飲んでもらうぞ。・・・明後日には、恒例の夏の歌会がある。我が
寒気団の代表として、これからはお前も出席するのだ。」
「げ、あれですか。・・・団長、オレがああいうのに向いてないって知ってるんでしょう?」
困った顔になるセンジュ。こちらも苦い顔になったアズサは、仕方なさそうに溜息をついた。
「そう言うな。正直、私だって遠慮したい気分なんだがな・・・冬将軍直々の招きとあれば止むを
得まい。」
「ですがね・・・。」
「こんなときに都に戻ってきたのも何かの縁だろう。軍人は上官の命令には絶対服従だ・・・済まんが、
私に殉じてくれ。」
「・・・・・・。」
「よいな、決めたぞ。では、詳しいことは追ってラナイを遣わす。・・・逃げるなよ。」
「へいへい・・・。」
げんなりした様子で頷くセンジュ。こうして、二人はアズサの部屋を後にすると冬将軍の許へと
向かったのだった。