WINTER WONDERLAND〜冬の都へようこそ!〜            6   

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ミズキは、センジュの屋敷・・・その中庭を見下ろす廊下に立っていた。
時刻はもう深夜に近いはずなのに、見上げれば太陽が明るく輝いている。故郷のエクセールも夏は
太陽の沈む時間が極端に短くなるが、完全に沈まない太陽を見たのは初めてだった。

「おう、まだ寝てなかったのか。」
「センジュ・・・。」
「もう遅いぜ。あんまり夜更かしすると、お肌に悪いんだろ?」
「そうだけど・・・。何だか、夜だって思えなくて。」

廊下の反対側から声をかけられて、ミズキはそちらを振り向いた。おどけた様子でミズキの方へと
近付いてきたセンジュは、昼間の軍服とは違ったゆったりとした服に着替えていた。

「どうだ? なんか不自由はないか?」
「ええ、大丈夫。みんなとても親切にしてくれるし。」
「そりゃあな。この屋敷に女が泊まるのは、まあ・・・初めてみたいなもんだからな。」
「・・・“みたいなもの”?」
「アズサ団長がな。一度・・・」
「・・・・・・。」

センジュの言わんとしたことを察し、苦笑いするミズキ。隣に立ったセンジュは、後ろで手を組むと
一緒に空を見上げた。

「で? 何してたんだ?」
「夜になっても明るいのが珍しくて。・・・空を見てたのよ。」
「ああ、これか。・・・“白夜”って言ってな、一年の三分の一はこうなんだ。」
「そんなに!?」
「ああ。その代わり、やっぱ一年の三分の一は太陽が昇らなくなるけどな。」
「へえ・・・。」
「そうだなぁ・・・。お前をここに連れてくるのは、夜が暗くなる季節の方がよかったかもな。」
「どうして?」

首を傾げるミズキ。センジュは、そんなミズキに向かって北の空を指差してみせた。

「あの辺りに、暗くなると北斗七星が見えるんだ。オレたち冬軍の、まあ象徴みたいなもんかな。」
「ふーん。」
「星にはそれぞれ名前があってな。その名前のついた七振りの刀が冬軍には伝わってるんだ。アズサ
団長も持ち主の一人なんだぜ。」
「センジュ、あなたは?」
「オレ? ははは、オレ程度じゃとても。何たって、冬軍全体で七人にしか授けられないシロモノ
なんだぜ?」
「そうなんだ。」

笑ったセンジュは顔の前で手を振り、それを最後に二人はしばらくの間黙り込んだ。流石に冬の都・・・
ということなのか、夜に付き物の虫の声は聞こえてこない。風もなく、静かな夜だった。
やがて、センジュが再び口を開いた。

「なあ。・・・帰ったら、どうするつもりなんだ?」
「え?」
「もう、山には来ないかもしれないって言ってたろ。・・・今年じゃなくたって、いつかはそうするんだよな。
・・・その後さ。」
「そうね・・・。」

しばらくの間考える表情をしていたミズキは、やがて隣に立っていたセンジュの横顔に向かって微笑み
かけた。

「故郷で、お店でも開きたいと思ってるの。」
「店? ケーキのか?」
「ええ。今は、他のお店の手伝いをしてるんだけど。」

再び夜空に目を向けるミズキ。

「自分の店を持つ・・・というのが、夫の夢だったの。だから私が、その夢を継ごうと思って・・・。」
「そうなのか。・・・なあ・・・」
「?」

ここで、何かを言いかけたセンジュは珍しく逡巡した。

「それなんだけどよ・・・。オレじゃ、手伝えないか・・・?」
「まあ、センジュったら・・・」

軽い冗談だと思った。しかし、「何を言ってるの・・・」と言いかけたミズキは、センジュの意外に真剣な
瞳に見つめられていることに気付き、うろたえることになった。

「それって・・・。」

その後は、口に出せなかった。・・・口にしてしまえば、それが何か全く別のものになってしまうような
気がしたからだ。


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