私の名前
1
2
3
4
5
6
7
−2−
居間のソファの上で、膝の上に本を広げて眉を寄せていたリュディアは、補佐竜の声に顔を上げた。
「あ? お前の、名前の由来?」
「はい。・・・何故“ジークリート”という名前を選ばれたのかに、興味が湧きまして。」
「ふーん? ま、教えてやってもいいけどよ。驚いて腰抜かすなよ?」
「能書きはいいですから、早く教えてくれませんか。」
にこりともしないジークリートの辛辣な台詞にもめげず、リュディアはにやりと笑うと大きく胸を張った。
「聞いて驚け! ジークリートってのはな、アタシがいた海賊団を千年以上も前に作ったっていう、
伝説の大海賊の名前なのさ!」
「・・・・・・。やれやれ・・・よりによって、海賊ですか。」
「あー、てめえ・・・海賊をバカにすんなよ! 金が手に入りゃいいっていう、そこらの盗賊風情と一緒に
されちゃ・・・」
「あーはいはい、そのご高説は以前にも伺いました。」
肩を竦めてその場を後にしようとしたジークリートは、ふと嫌な予感に襲われた。急いでリュディアに
向き直ると、改めて尋ねる。
「・・・ちょっと待ってください。」
「んだよ。まだあんのかよ。」
「師匠のいらしたという海賊団は・・・代々頭領は皆、女性だったと伺ったことがありますが。」
「そうだぜ? アタシの母さんも、頭領だったんだからな。これは、海賊団ができてからの掟なんだ。」
自分の話をいいところで中断されて面白くないリュディアが、口を尖らせて答える。
「では、まさか・・・その、海賊団の始祖だというジークリートさんも・・・?」
「当たり前だ、女に決まってるじゃねえか。」
「しかし、それでは・・・! なぜ、私の名前にそれを!?」
「ふん! 大事な子竜に、汚らわしい“男”の名前なんて付けられるかってーの!」
「あの・・・師匠。私は、男・・・」
「うるせえな。小さいことでウダウダぬかすな。」
「小さくありません。」
(何てことだ・・・。私の名前が、実は女性名だったとは・・・)
衝撃から呆然としているジークリートとは対照的に、リュディアは目をキラキラさせている。
「ま、気にすんなよ。このジークリート様もな、そこら辺の男よりはよっぽど男らしいお方だった
らしいんだ。女なのは名前の上だけ・・・ってオイ! ジーク、どこ行くんだよ。」
部屋の入り口で立ち止まったジークリートは、振り向きもせずに暗い声で呟いたのだった。
「・・・しばらく、一人にしてください。」