私の名前              7 

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「リカルド・・・。今、忙しい?」
「おう、テラか。どうした?」
「ううん・・・別に。」
「そうか。・・・ちょっと待ってくれ、もう少しで終わるから。」

頷いたリカルドは、取っ組んでいた鉋の刃の鋼直しを再開した。大工出身のリカルドは、火竜術士に
なった今でも馴染みのある大工道具作りを引き受けることが多いのである。
黙って工房に入ってきたテラは、リカルドの傍らに腰を下ろしてその様子をじっと眺めている。草色の
瞳に、ゆらめく炉の炎が映る。

「何があった?」
「・・・え?」
「相談事が、あるんだろ?」

削り終わった鉋の刃を手元に置き、リカルドはテラに向き直った。
何か悩み事があるとき、テラは必ず工房にやってくる。そして、黙って自分の傍に座って作業をじっと
眺めるのだ。
しばらく躊躇っていたテラが、小声で話し始める。

「今日、授業でね。・・・竜人化術の話が出て。」
「ああ。」
「それで・・・。自分の名前の由来とか、気になって・・・。」
「そうか。お前の名前は、俺が付けたんじゃないもんな。」
「うん・・・」

頷いたテラは、そのまま黙り込んだ。
テラと、里の両親・・・そして、二人の兄姉との間が上手く行っていないのは知っていた。それがよく
分かっているからこそ、テラは自分に名前の由来を聞きに来たのだろう。

「訊いてみたらどうだ? 手紙でも書いてさ。」
「え?」
「お前が、何を悩んでいるのかは分かってる。多分、気が進まないだろうということもな。でも・・・ずっと
このままでいいとは、お前も思ってないんだろう? テラ。」
「・・・・・・。」
「もちろん、無理にとは言わないさ。でも・・・これは、もしかしたら一つのきっかけじゃないのかな。」
「きっかけ・・・」
「ああ。それに、離れてみて初めて分かることもあるだろうしな。」
「・・・・・・。」
「生きていれば、仲直りすることもできるさ。・・・あとは、お前が決めたらいい。」
「あ・・・」

何かを言おうとしたテラの頭に手を置き、その髪をくしゃ、と乱す。リカルドの顔を見上げたテラは、
そこで微笑んだようだった。

「・・・うん。・・・今度、手紙を書いてみる。」
「そうか。くれぐれも、無理はするなよ?」
「わかってる。・・・ありがと、リカルド。」
「なに、気にするなよ。・・・それより、もう遅い。明日も学校があるんだし、もう今夜は休むんだぞ。」
「うん。リカルドもね。」
「ああ。」

ぽん、と肩を叩いて送り出す。工房から出ていくテラの後姿を見送っていたリカルドは、束の間
寂しそうな表情を浮かべた。

(名前の由来、か・・・。オレも、訊いてみればよかったかな・・・)

リカルドの両親が死んだのは、まだ自分が十二歳の頃だった。父の師匠に当たる大工に引き取られた
リカルドは、それを機に自らも大工への道を歩み始めたのだった。無論、自分の名前についての話を
両親と交わしたことはない。
名前の意味については、文献を調べればすぐに知ることができるだろう。しかし、何故両親がその名を
選び、そして自分がどのような人間に育って欲しいと願っていたかについては、今となっては知る由も
ない。・・・テラに、同じ思いを味わわせたくはなかった。

(・・・・・・)

溜息をついたリカルドは、作りかけの鉋の刃を手に取ると裏削りを始めた。その小さな音が、夜も
更けた火竜術士の町並みに吸い込まれていった。


はしがき

「夏の手紙」関連キャラクターの命名理由について書いてみました。もちろん、ジークリートの
エピソードが一番書きたかったというのは言うまでもありません(邪笑)。
ちなみに、この時点ではシゼリアはまだコーセルテルに来ていないので、クラスは七人です。

<参考にさせていただいたサイト>
山本鉋製作所 (鉋(かんな)の作り方))