萩野原  プロローグ          5    エピローグ

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『ぜっ・・・全滅! 全滅です!! 我が軍、敵軍を含めて・・・全てがっ!!』

しばしの間呆然とその光景を見ていた長老達は、我に返ると放心状態のエストを取り囲んだ。

「フェリシテ・・・何ということをしてくれたのだ!」
「攻撃するのは敵の主力だけで良いと言ったであろう! 退却中の我が軍主力まで巻き込むとは・・・
一体何を考えているのだ!?」
「我が軍の兵力はこれで完全になくなった。だが、奴らにはまだ本国に予備兵力が数万はある・・・
今攻め込まれたら我らに防ぐ術はないのだぞ!?」
「いい加減にしろ!! 一体、何様のつもりだ!?」

自分達の非道な作戦を棚に上げ、口々にエストを罵る長老達。その様子に我慢がならなくなった
シオンは、ついに長老達を怒鳴りつけた。

「それが、初めてできた友人を目の前で喪った子供に対する言葉なのか!? 恥を知れ、恥を!!」
「だが、こやつのせいで我が軍は全滅・・・」
「そもそも、こんな非道な作戦が上手く行くと本気で思っていたのか!? たくさんの命を犠牲にする
こんな作戦が!!」
「しっ、しかし・・・」
「やはりコーセルテルでしっかりした教育を・・・と考えた私が間違っていた。こんな時期に、この子を
ここへ連れてくるべきではなかった!!」

言いながら、シオンは“竜王の竜術士”としての正装を脱ぎ捨て、術杖と共に床に叩きつける。

「シオン・・・な、何をするつもりだ?」
「知れたこと。この子の父との約束を果たし、フェリシテ・・・いや、エストを里へ連れ帰ります!
この子がこの子らしく生きられる場所へ!!」
「そんな勝手は許されんぞ!」
「勝手なのはどちらです!? 自分たちに都合のいい道具として扱うために、こんな小さな少女の
記憶を封印し、宮廷の一室に閉じ込めたあなた方に言われたくはない!」
「しかし、それは・・・お前も賛成したことではないか!」
「エストの心を殺してしまうよりはいいと思ったからこそ、渋々ですが賛成したのです! それを今度は、
私の息子の命を餌にこんな幼い少女の心を踏みにじるとは!! ・・・私には、もはやあなた方を信じる
ことはできない!!」
「しかし・・・奴らに負けぬには、我々にはこれしかなかったのだ!! 奴らにこの国土を蹂躙されたら、
残されている住民はどうなるのだ!? そこのところを良く考えてみよ!!」
「それでも、やって良いことと悪いことがあるはずです! あなた方は狂っている・・・これ以上エストに
あなた方の手助けはさせたくない!!」
「ま、待て・・・!!」
「エスト、おいで・・・。」

最初の暴発の後虚脱状態に陥っていたエストは、自分本来の名前を呼ばれて、虚ろな目をシオンに
向けた。よろよろと足元に歩み寄ったエストを抱き上げると、シオンはその額のサークレットをむしり
取った。

「すまない・・・こんなものでお前を縛り付けて、辛い思いをさせたな。」
「竜術士シオンよ、それは我々への反逆と見なすぞ!」
「・・・えーい、この男を取り押さえよ! 必要ならば、殺しても構わん!!」
「・・・私を殺すですと?」

同化術。次の瞬間その場に立っていたのは、暗竜の衣装をまとった一人の女性だった。
シオンは帯びていた剣を抜き放つと、それを構えて見せた。

「私の剣の腕はもちろんご存知でしょうな。竜術、武術・・・今の私は間違いなくどちらをとっても
コーセルテル最強。私とエストを遮るものは、全て容赦なく斬り捨てます・・・そのおつもりでおられよ!」

うっ、とざわめく室内。それを尻目に、シオンはゆっくりと部屋の出口へと向かう。

「ま・・・待て! 里までの間、同化術が続けられると思うのか!?」
「お前も死んでしまうぞ! それでも良いのか!!」

竜王の間の入り口で振り返ったシオンは、一瞬寂しげな笑いを浮かべた。

「それもまた良いでしょう・・・この子の父との約束を守れなかった私には、当然の報いかも
知れません。・・・御免!」

竜王の間から飛び出すシオン。最早、誰もその後を追おうとはしなかった。


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