萩野原  プロローグ            6  エピローグ

 −6−

夢に見た風景が、目の前に広がっていた。

どこまでも広がる、白い萩の野原。
麗らかな日差し、澄み切った青空。そして、心地よい微風。何もかも夢の通りだった。

「ここは、変わらないな・・・。」

同化術を解き、エストの背後に座り込んだシオンが呟く。

「エスト、宮廷で・・・お前は夢を見たと言ってたな。それは・・・ここのことじゃないのか?」
「多分・・・そう。」
「そうか。やっぱり・・・覚えていたんだな。記憶を封印されたというのに・・・。」
「・・・シオン?」

草原に寝転ぶシオン。その表情は、宮廷ではついぞ見せたことのない穏やかなものだった。

「エスト・・・お前の父の話をしたことは・・・なかったよな。」
「うん・・・。」
「私が、お前の父と最初に会ったのは・・・ここなんだ。ちょうど勉強をサボって抜け出してきたって
な・・・。」

その時のことを思い出したのだろう、シオンはくっくっと笑いを漏らした。

「あいつは、暗竜のくせに・・・やんちゃで明るい奴でな。剣でいきなり斬りかかった私を・・・暗竜術で
苦もなく叩きのめすと、こう言ったんだ・・・。」
「・・・?」
「『面白いヤツだな。その剣の腕、活かす気はないか』ってな。・・・負けた、と思ったよ・・・。」

遠い昔を思い出すように、ぽつりぽつりと言葉を継ぐシオン。その目が、澄んだ空を反射してキラリと
光った。

「卵のお前を預かって・・・ほどなくしてお前の父は戦死してしまった。一時だが・・・お前はここで・・・
私たちと暮らしていたことがあったんだ。」
「・・・・・・。」
「私は・・・戦地へ発つお前の父と約束した。・・・何があってもこの子は私が守る・・・と。だが・・・私は
それを・・・裏切って・・・」
「シオン・・・シオン? しっかりして・・・。」
「済まない・・・私もそろそろ・・・行かねば・・・ならないようだ・・・」
「そんな・・・わたしを一人にしないで!」
「ごめんな・・・」

微笑んだシオンは、倒れたまま左手でエストの長い髪を撫で付けた。その手に縋るエスト・・・だが、
シオンの目には既に彼女の姿は映っていなかった。

「ああ・・・今行くよ。皆・・・待たせたな・・・」

と呟いたのを最後に、ぱたり・・・とシオンの手が地面に落ちる。

「・・・シオン? ねえシオン、どうしたの・・・ねえってば・・・」

シオンの肩に手をかけ、力いっぱいそれを揺するエスト。しかし、シオンはもう返事をしなかった。

「なんで・・・なんでみんなわたしを置いていくの!? いやっ、シオン・・・戻ってきてっ!!」

泣きながら、エストはシオンの身体を力一杯抱きしめた。

「いや――――――――――っ!!!!」

この瞬間、コーセルテルを中心に激しい揺れが南大陸全土を襲った。震源が大陸中央だったにも
拘らず、この地震は遠く北大陸にも津波の被害を及ぼし、被害は全種族を合わせて数十万人に
上る未曾有の大災害となった。そしてこの地震が、傾きかけていた真竜族の王国フェスタにも同時に
止めを刺したのだった。
大地の揺らめきが収まった後、そこに残されていたのは広大な荒れ果てた大地と、いくつかの崩れ
かけた建物のみ。かつて繁栄を誇った子竜たちの楽園、竜都コーセルテルの面影はどこにも
なかった。


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