萩野原  プロローグ              エピローグ

萩野原


 −プロローグ−

「あーあ、あたしにも暗竜術の素質があったらよかったのに!」

火竜術士見習いのアグリナは、大きく溜息をつきながら座っていた椅子にもたれかかった。その
向かいでは暗竜のラルカが、「どうして?」といった感じで小首を傾げている。

「だってさ、やっぱり竜術を習うからには全部の術が使えるようになりたいじゃない。前にマシェルの
家に連れてってもらった時はすごいなーって思ったし・・・それに、竜術の中では暗竜術って最強
なんでしょ?」
「あらあら、何の話かしら?」

台所から、紅茶とお茶請けを持って戻ってきた暗竜術士のメリアが、にこにこしながら二人に声を
かける。

「アグリナ、暗竜術士になりたいんだって・・・。」
「あらまあ。・・・それは、マシェルに憧れてのことかしら?」

アグリナのマシェルへの密かな恋心を知っているメリアは、微笑みながらアグリナにそう問いかけた。
それを聞いたアグリナは、いつも通り赤くなった。

「そ・・・それもありますけどっ、やっぱり暗竜術が最強だっていうし。どうせなら、すごい術を習って
みたくて・・・。」

アグリナのこの台詞を聞いて、メリアは複雑な表情をした。

「最強・・・確かにそうかも知れないわね。でもね、アグリナ・・・暗竜術の真の力が発揮される時は、
必ず暗竜も傷ついたものなのよ。」
「・・・何といっても、コーセルテルごと埋めちゃうくらいですもんね!」
「違うわ、そういう意味じゃないの。」

単純なアグリナの想像に苦笑するメリア。

「・・・ちょっと前にナータが力を暴走させかけたことがあったけれど、あれもマシェルが傷ついたと
勘違いしてのことだったでしょう? 愛する者が傷ついたり、死んでしまった時にその真の力が解放
される・・・暗竜術というのは、そういう悲しい側面も持っているのよ。」
「ふーん。」

なんとなく分かったような、分からないような表情で呟くアグリナを見て、メリアはさらに言葉を継ぐ。

「アグリナ、今暗竜の里にはほとんど暗竜が残っていないことは知っている?」
「え? ・・・あ、はい。」
「じゃ、暗竜たちがなぜ今里にいないかは?」
「え? それは・・・えーと・・・。」

眉を寄せて考え込むアグリナ。父イフロフに言われて少しずつコーセルテルの歴史や竜術の仕組み
などを勉強するようになった彼女だったが、元来そういったものは苦手なのだった。

「いい機会だから話してあげるわね。これも、暗竜の持つ強大な力ゆえの悲劇だったのよ・・・。」


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