blue water
プロローグ
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エピローグ
−エピローグ−
「・・・あれ? じゃあ、結局ウィンシーダさんの“夢”って何だったんです?」
「・・・・・・。それはだな・・・」
「ただ今戻りました。」
「お、帰ってきたみたいだな。・・・おう、お帰り。」
ランバルスが話の核心に触れようとしたまさにそのとき、玄関の方からユイシィの声がした。
バスケットを片手に応接間に顔を覗かせたユイシィは、そこに見慣れない人物の姿を認めて
意外そうな顔をした。
「すみません、遅くなってしまって・・・あらリリック。どうしたの?」
「やあユイシィ! 遅かったじゃないか、待ってたんだよ〜!」
「・・・そう。それで?」
そっけないユイシィの返答にも、リリックはいつもの笑顔を絶やさない。“あらリリック”以降の声の
トーンががくんと下がったのに気が付いたランバルスが、苦笑しながら口を挟む。
「お前に用があるとかで、二時間も待ってたんだぞ。」
「そうさ、二時間も・・・って、えぇ!?」
にこにこしていたリリックは、このランバルスの何気ない言葉に応接間の時計の方を振り向き・・・そして
瞬時に青ざめた。恐らくこのときのリリックの脳裏には、鬼の形相のエレが「回覧板一つ届けるのに、
一体何時間かかってるのよ!!」と怒鳴る様子が瞬時に浮かんだに違いない。
「うわ、大変だ・・・ぼく帰ります! さよならっ!!」
「あ・・・ああ。気を付けてな。」
こうして真っ青になったリリックは挨拶もそこそこに応接間を飛び出し、その後姿を見送りながら
ランバルスとユイシィは顔を見合わせることになったのだった。
「一体・・・何だったんでしょうか。」
「さあな。そう言えば、結局用件は聞かずじまいだった。」
ここで、思い出したようにユイシィがランバルスに問いかける。
「そういえば師匠、リリックと二時間も・・・何を話してたんです? もしかして、またあらぬことを
吹き込んでいたとか・・・」
「あらぬことって何だよ。・・・あのオルゴールのことを、ちょっとな。」
「・・・そうですか。」
複雑な表情になったユイシィは、ちらりと机の上に置かれたオルゴールに目をやるとそのまま無言で
応接間を後にした。その後姿を見送っていたランバルスは、小さく頷くと座っていたソファーから立ち
上がった。
(そうだ、ユイシィにも・・・機会を見つけてちゃんと話をしてやらないとな・・・)
戸棚の上に戻そうとオルゴールを手に取ったランバルスは、しばらくの間それをじっと見つめた。
(シーダ・・・どうしてる?)
(お前が夢に見ていたこのコーセルテルで・・・俺は今、“家族”にも恵まれて幸せにやっている・・・)
(今でも時々思うんだ。これで良かったのかと・・・お前やヴィアンカは、俺を許してくれるのか・・・ってな)
(・・・・・・)
「・・・師匠、何をぼんやりとそんなところに突っ立ってるんですか。」
「ぼ・・・ぼんやり?」
不意に後ろからかけられた声に、ランバルスは我に帰るとそちらを振り向いた。そこには、エプロンを
したユイシィが不満そうな表情で立っている。
「そうです。珍しく家にいるんですから、この機会に家のことを少しは覚えよう・・・という気はないの
ですか?」
「あ・・・ああ、そうだな。・・・でもな、最近はロービィもしっかりしてきたし、何も俺がいなくたって・・・」
「それとこれとは話が別です。さ、手伝ってください。」
「分かったよ・・・。」
有無を言わせぬユイシィの言葉に、頭を掻いたランバルスはオルゴールを元あった場所に置くと
応接間の入り口へと向かった。そしてその戸口で、開け放たれていた窓の方を束の間振り向き・・・
そして僅かに微笑む。・・・初夏の風に乗って、懐かしい声が聞こえた気がしたからだ。
『相変わらず鈍いわね・・・もちろんじゃないの!』