青空  1             

青空


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「・・・以上で、全過程を終了する。皆、一年間よくついてきたな。」

精霊術士の国ユックル。その首都ウセラにある精霊術士養成学校の階段教室には、辛く厳しい
一年間の訓練に耐えた精霊術士の卵たちが勢揃いしていた。年齢は様々だったが、どの顔にも
自らの頑張りへの自負が見て取れた。

「最後に、諸君らに実技の試験を課す。」

このガートルードという女教師の試験好きは有名だった。何かの区切りは必ず試験・・・筆記、実技と
その様式は様々だったが、お蔭で生徒たちは苦労させられて来たのだった。「また始まった」「最後まで
これかよ」といった生徒たちのぼやきを尻目に、ガートルードは教壇の隅に置いてあったバスケットを
教卓の上に載せた。

「ここに、人数分の五級の風の精霊が封じられたケージがある。各自後で取りに来てもらいたい。
試験というのは・・・」

ここでガートルードは教室中を一渡り眺め回してから、眼鏡をずり上げゆっくりとこう言った。

「与えられた精霊を、教官の前で精霊術で消滅させて見せることだ。」

次の瞬間、教室じゅうから声にならない叫びが上がった。憤慨、落胆、恐怖・・・感情は様々だったが、
ただ一つはっきりしていたのは、生徒の誰もがこの試験を歓迎していないということだった。しかし、
そんな生徒たちの様子に頓着せずガートルードは淡々と続ける。

「期限は三日だ。それまでにこの試験に合格できなかった者は精霊術士としての資格が認められ
ないから、そのつもりでな。」

教壇から降り、教室の入り口の扉に手をかけたところでガートルードは立ち止まった。そして、ざわつく
生徒たちに向かって一言付け加えた。

「ああそうだ、私は明日から戦地へ旅立つことになっている。実技試験を私に見てもらいたい者は、
今日中に来るように。」


  *


「先生!」

教室を出て十歩も歩かないうちに背後から浴びせられた険のある声に、ガートルードは立ち止まり、
振り向いた。

「・・・カディオか。どうした、こんなところで早速実技試験をやってみせるつもりか? 私としては
その方が助かるが・・・」
「ふざけないでください!」
「ふざけてはいないつもりだが? ・・・私は忙しい、言いたいことがあるなら早く言ってくれ。」

ガートルードのこの台詞に、あの後すぐに教室を飛び出してきたらしいカディオは、相手を睨み付けると
早口でまくし立てた。

「さっきの試験、あれは一体どういうことなんです!?」
「どういうこと・・・とは? 精霊術士としての資格を認めるに当たって、最後に課題を課すのは妥当だと
思うが?」
「そうじゃなくて! 何でこんな試験が最終課題なのかって言ってるんです!!」
「・・・よく分からんが、お前は試験の内容に不満があるんだな?」
「そうです! 他のやつらもみんなそう言ってます・・・納得の行く説明をしてください!!」

カディオに詰め寄られ、僅かに眉を寄せていたガートルードはここでふいににやりとした。

「いいだろう、ついて来い。」
「え!? ちょっと、まだ話は・・・」
「勘違いするな、私自らが最後に『個人授業』をしてやろうと言ってるんだ。・・・今年度の最優秀生に
免じてな。」

ガートルードはそう言うと、カディオの返事も待たずに歩き出した。しばらく迷っていたカディオは、
やがてその後を追った。


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