青空
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考え込んだカディオに、ガートルードはこんなことを言い出した。
「一ついいことを聞かせてやろう。・・・この学校、入学には一切費用はかからん。当然、授業料から
寄宿料まで全てタダだ。もちろん、入学にはそれなりの資質が必要なわけだが・・・なぜこんなことが
可能なんだと思う?」
「それは、国が援助を・・・」
「その通りだ。では、なぜ国がこの学校に援助をしているのか。それはな・・・」
「それは・・・?」
顔を上げるカディオ。ガートルードは身を乗り出すとその目をじっと覗き込み、重々しく告げた。
「卒業生が傭兵として各国で活躍することで、いずれは国に利益をもたらすことになるからだ。これは、
慈善事業じゃないからな。」
「・・・・・・。」
「好む好まざるにかかわらず、お前もその道を歩むことになるだろう。そして、戦場で敵兵を前にして
お前は言うのか? 『精霊がかわいそうだから精霊術は使えません』とな。そんなことでは自分の命を
守ることもおぼつかん・・・いや、そもそもそんな危険思想の持ち主は、国から命を狙われるのがオチ
だろうな。」
再び俯いたカディオに対し、ガートルードは厳しい表情になると最後にこう言い放った。
「いいかカディオ。精霊は道具だと思え・・・人間を殺すためのな。」
「・・・・・・。」
突きつけられた現実に呆然とするカディオ。一方、カディオの背後に当たる壁にかけられていた時計に
目をやると、ガートルードは座っていたソファーから立ち上がった。
「もうこんな時間か。・・・すまんが、後の話はこのエリアルに聞いてくれ。」
「え・・・でも・・・」
「さっき、『明日から戦地へ旅立つ』と言っただろう? これからその準備があるんだ・・・仕事の引き
継ぎやら、まあ色々とな。」
少し寂しそうにそう言ったガートルードは、思い出したようにソファに座り直すとカディオの顔を見た。
「そうだ、カディオ・・・お前にこれを譲ろう。」
そう言ってガートルードが胸ポケットから取り出したのは、精霊を封じておくケージだった。封じる精霊の
ランクに合わせてケージも様々なものが存在するが、このとき彼女が掌に載せて差し出したものは、
まだ訓練生であるカディオには見たこともないような高級なものであった。
「これは・・・!」
「分かるか? これは特級精霊用だ・・・理論上は、いかなる精霊もこの中に封じることができる。
エリアルを連れ帰るのに必要だろう。」
「でも、そんな貴重品をどうして! それに、ケージは精霊術士の証でもあるって・・・」
「そう言うな。長い教師生活で、私に噛み付いたのはお前が初めてだったからな。その記念だとでも
思えばいい。・・・ではな。」
こう言って戸惑うカディオにケージを押し付けると、ガートルードは座っていたソファーから立ち上がり
部屋の出口に向かう・・・そしてそこで束の間立ち止まった。
「・・・・・・」
その唇から漏れた呟きはカディオには届かなかったが、彼女の後姿を見送っていたエリアルは小さく
頭を下げたのだった。
*
寮に戻ったカディオは、自室に入ると早速ケージからエリアルを呼び出した。
「先生は、分からないことがあったらお前に訊けって言ってたな。」
「ええ。・・・何か訊きたいことはある?」
「分からないことばかりだ! そもそも、なぜ『精霊は道具』なんて平然と言ってのけられるやつに
お前は従っていられるんだ?」
このカディオのもっともな質問に、しばらくの間黙っていたエリアルはやがて静かに答えた。
「そうとでも言っていなければ、この国には留まれなかった・・・いいえ、精霊術士になることも難しかった
でしょうね。」
「え・・・?」
予想外の返答に、カディオは目を白黒させた。
「表ではあんなことを言っているけど、ガーティは私たち精霊がなるべくひどい扱いを受けないよう、
できる限りのことをしてくれたわ。精霊たちはみんな感謝こそすれ、ガーティのことを恨んでは
いないの。」
「うそだろ・・・あの先生がか?」
「ええ。でも、そのことが国の上層部に知られてしまって・・・今度の戦場への派遣は、左遷なのよ。
『危険思想の持ち主だ』って・・・」
「そんな! じゃあ、先生は本当は・・・!」
ガートルードに対して自分の持っていた印象と実際が百八十度違うということが分かり、カディオの顔に
驚きの色が浮かぶ。そんなカディオに向かってエリアルは頷いた。
「本当は、ガーティは精霊術士なんてできる人じゃないの。精霊を愛し、心から精霊との共存を望んだ
人・・・だから、私は自分の意志でガーティと一緒にいるの。」
「じゃあ、どうして先生は精霊術士になったりしたんだ?」
目を伏せたエリアルは、ガートルードが精霊術士になった顛末を少しずつ語り始めた。
「それはね・・・」