青空                8

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「そんなことがあったのか・・・。」
「ガーティにも分かっていたのよ、きっと・・・どんなことをしても、もう昔の日々は戻ってこないって
ことは。でも、生きるためには何か目標が必要だった・・・。」
「先生・・・。」

長い長いエリアルの話を聞き終えたカディオは、溜息をつくと俯いた。しばらくの間黙っていた
エリアルは、やがて再び口を開いた。

「ねえカディオ・・・先生が、私をあなたに託した意味が分かるかしら?」
「意味?」
「そう。精霊術士が、所有する精霊を手放すことは滅多にないわ。それがあり得るのは・・・」
「まさか!」

カディオは、慌てて腰掛けていた自らのベッドから立ち上がった。そして、エリアルが封じられていた
ケージを掴むと部屋の外へと飛び出す。
精霊術士が自ら配下の精霊を手放す場合は二つ。一つは精霊術士を引退する時であり、もう一つは
・・・死を覚悟した時だった。

(だめだ、行かせちゃいけない! 先生は・・・死ぬ気なんだ!)


  *


「先生!」

カディオは“資料室”の扉を開けると同時にその中に飛び込み・・・そして絶句した。
部屋の中は綺麗に片付けられていた。昼間ここに来た時に座ったソファーも、部屋に所狭しと置かれて
いた鉢植えの花々も・・・部屋に満ちていた「自然」の空気は、もはや跡形もなかった。残されていた
のは、ガートルードの机だけ・・・その上には、彼女のトレードマークでもあった眼鏡が一つ、ぽつんと
置かれていた。

「・・・・・・。」

眼鏡を手にしたカディオは、しばらくの間机の前で呆然と立ち尽くしていたが・・・やがて背後に立って
いたエリアルに向かってゆっくりと言った。

「エリアル・・・俺と、来てくれるか? ・・・先生の遺志を継ぐために。」
「ええ。・・・それが、ガーティの望みですもの。」

静かに答えるエリアル。その言葉に背後を振り向いたカディオは、ゆっくりと頷いたのだった・・・。



(『ガーティの夢』へ続く)


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