ガーティの夢
1
2
3
4
5
6
7
8
−2−
「おう、エリアルか。・・・久しぶりだな。」
「シル・・・。まさか、あなたがここの長をしてたなんて・・・」
「水精って聞いてな、もしかしたらと思ったんだ。やっぱり、お前だったんだな。」
森の奥でカディオたちを待っていたのは、明るい草色の髪をした青年だった。
風精シルフェス。カディオは、エリアルの昔語りにその名を聞いたことがあった。
かつて、自らの師ガートルードが心を通わせることができたという精霊たちの一人であり、師が故郷を
離れる際に、その袂を分かつことになったという。
「来いよ。思い出話でもしようじゃねえか。」
足元にいるカディオのことは完全に無視したまま、シルフェスは笑顔でエリアルを差し招いた。呆気に
取られた部下が、恐る恐るシルフェスに尋ねる。
「あの・・・長、この人間は・・・?」
「殺せ。」
笑顔のまま、シルフェスは即答した。
「ここは、オレたち精霊の地だ。人間に用はない。」
「ちょっと待って! 私たちは、あなたたちの力になろうって・・・」
「そう言っていた人間もいたな。だが、結果は無残だった。」
「シル、あなた・・・まだ、あのことを・・・?」
「もういいだろう。人間を信用して痛い目に遭うのは・・・。」
「・・・・・・。」
エリアルは、取り付く島のないシルフェスの返答に言葉を失くした。このやり取りを傍で聞いていた
カディオは、鼻を鳴らすと頬を歪めてみせた。
「なるほどな・・・お前たち、精霊が戦に負け続けている理由がよく分かった。」
「何だと?」
この言葉に、カディオに背を向けていたシルフェスがぴくりと反応した。大股でカディオに歩み寄ると、
その襟元を掴み上げる。
「小僧。・・・今のは、どういう意味だ?」
「小僧じゃない。カディオだ。」
「こいつ・・・」
シルフェスの目を真っ直ぐに見つめて言い返すカディオ。シルフェスは、にやりと笑うと襟元から手を
離した。
「なるほどな。さすがに、いい度胸してやがるぜ。・・・おい、カディオとか言ったな。」
「何だ。」
「冥土の土産に言わせてやる。・・・オレたちが戦に負け続けている、その理由はなんなんだ?」
「決まっているだろう。指揮官も部下も揃って無能だからだ。」
「何だと貴様! この、人間風情が・・・」
「待て!」
殺気立つ周囲の精霊たちを一喝すると、シルフェスはカディオの前に屈み込んだ。
「言ってくれるじゃねえか。それは、オレがお前の話を聞かずに殺せと言ったのが悪いってことか?」
「当たり前だ。わざわざ殺されに、ここまで出向いてくる物好きがいると思っているのか? 相手の
真意を確かめもしないのは、指揮官として無能以外の何者でもないだろう。・・・そして、そのことを
諫める部下もいない。指揮官も部下も揃って無能というのは、つまりそういうことだ。」
「そうか、それは悪かったな。」
カディオの言葉に、周囲の精霊たちが目を伏せる。その様子に、シルフェスは再びにやりと笑った。
「そうまで言われちゃ、このまま殺すのも後味が悪いな。じゃあ、改めて聞かせてもらおうじゃねえか・・・
お前はなぜここに来たんだ?」
「俺は・・・」
シルフェスの目をじっと見つめたカディオは、はっきりと言い切った。
「・・・君たち精霊を戦に勝たせるためにここに来た。」
「何だと?」
「それが、皆のためになると思ったからな。・・・どうだ、話を聞く気になったか?」
「・・・はっはっは! こいつは傑作だ!! 人間の・・・それも精霊術士が、オレたち精霊の
味方をしてくれるんだとよ!!」
破顔したシルフェスが立ち上がる。次の瞬間、カディオは自らの戒めが解かれるのを感じた。
風精術。その切れ味は、鋭利な刃物にも勝るという。
「・・・いいだろう。こっちに来い。」
「お・・・長!?」
「いいじゃねえか、オレはこいつが気に入ったんだ。」
周囲の精霊たちが、一斉にシルフェスに食ってかかる。それには頓着せず、シルフェスはカディオを
差し招いた。
「殺すだけならいつでもできる。その前に、こいつが何を考えてるのか聞かせてもらおうじゃねえか。」
「し・・・しかし!」
「オレが、そう決めた。文句はねえな?」
「・・・・・・。」
(ほう・・・)
不満そうな様子ながらも口を噤んだ精霊たちの様子に、カディオは僅かに眉を上げた。どうやら、この
シルフェスという精霊たちの長には、それなりの指導力はあるようだ。これならば、精霊たちを自分の
思い通りに動かすことも可能だろう。
シルフェスがカディオを連れていった場所には、木陰に小さな机があった。その上には、付近一帯の
地図らしきものも載せられている。
「・・・お前はさっき、オレたちを勝たせると言ったな。どうすれば勝てるのか、これから説明してもらおう
じゃねえか。」
「いいだろう。」
頷いたカディオは、自分を取り巻く精霊たちの顔を見渡した。にやにやしているシルフェス、心配そうな
エリアルの二人を除くと、周囲の精霊たちはその目に憎悪と不信の色を浮かべたままだった。