ガーティの夢
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「カディオめ・・・勝手なことをしおって!!」
薄暗い部屋である。腹立たしげに大声を出した一人に向かって、円陣の中央に座った男が執り成す
ように口を挟んだ。
「まあ、そう腹を立てることもあるまい。かの地で再び戦いを起こさせる手立てなど、いくらでもあるの
だからな。」
「しかし、首座様・・・」
「今は、アミアンの女王との接触を欠かさない、ということで良しとしようではないか。いざという時は、
我らが後ろ盾になると・・・日夜吹き込むのだ。あの女王の性格であれば、程なくしてまた戦が始まる
のは必定。」
「しかし・・・それで、万が一アミアン側が勝ってしまったら、なんとなさるのです?」
「それはない。“後ろ盾”は方便だからだ。」
先程とは違う相手に尋ねられ、男は穏やかに笑った。
「アミアン側に勝たれては、困るのだよ。アミアンは精霊の優良な供給源・・・いっそ、人間の国家など
無くなってくれた方が良いのだ。」
「なるほど・・・そういうことでございますか。」
「今回の顛末で、カディオによってかの地の精霊たちは格段に戦に強くなった。例えアミアンが元の
勢力を取り戻せたとしても、本格的な戦になれば勝敗は目に見えている。・・・そういった意味で、今回
カディオは良くやったと言っても良いだろう。」
「“怪我の功名”とは・・・こういったことを指すのでしょうかな。」
「うむ・・・そうかも知れんな。」
微かな笑いが、一座に広がった。やがて、円陣の中央にいる男の目がすっと細められる。
「カディオから、目を離すな。無論、奴の従えている水精も含めてだ。・・・今回は結果的には我らの意に
沿う形での決着となったが、いつもそうとは限らん。」
「は・・・心得ました。それとなく、監視を付けることに致します。」
「うむ。それにしても・・・優秀な人間というのは、上の者に逆らうようにできているのか? 先だっての
ガートルードといい、今回のカディオといい・・・。」
「おや、首座様・・・その言い様では、まるで我らが優秀ではないというように聞こえますが?」
「ははは・・・済まぬ、そんなつもりはなかったのだがな。」
再び、一座が笑いに包まれた。頭を掻いた男はそのまま立ち上がり、周囲の者たちもそれに倣う。
「皆、遠路はるばるご苦労だった。次の会議は、また一月後に。」
「はい。ではまた、その時に・・・。」
「首座様も、お健やかに・・・。」
「うむ。皆も、達者でな。」
挨拶を交わし、部屋を出ていく者たちを見送っていた男は、やがてぽつりと呟いた。その横顔は、
先程までとは打って変わって険しいものだった。
「カディオか・・・。いずれ、何とかせねばならんな・・・。」
(『さよなら夏の日』へ続く)