Message From The Wind  プロローグ              エピローグ

Message From The Wind
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 −プロローグ−

月明かりの中、少年はゆっくりと通りを歩いていた。
既に日が変わり、寝静まった辺りの家々からは物音一つ聞こえない。通りの両側に植えられている
街路樹はとうに葉を落としており、凍えるような風が辺りを吹き抜けるたびに、少年は粗末なコートの
襟元を押さえるのだった。
やがて十字路に差しかかり、少年はちらりと月を見上げた。明るい月の光とは裏腹に、それに照らし
出された表情は暗い。
叔父夫婦は少年に冷たかった。従兄弟たちもそうだ。かつては会うたびにちやほやされたのが、今と
なっては嘘のようだった。掌を返したように態度を変えた周囲の人々に、初め少年は戸惑い、悲しみ
・・・そして次第に相手を憎むようになっていった。だが、今は黙って耐えるしかないのだ。

程なくして、少年は小さな公園に辿り着いた。そのベンチに腰かけた少年は、コートのポケットから
一通の手紙を取り出した。
封筒から取り出された便箋は、余程の回数読み返されたとみえて手垢で黒ずみ、折り目の部分は
既にボロボロになっていた。それを少年は丁寧に広げ、月光の下で一心に読み耽るのだった。
いつ見ても、両親の文字は心に沁みる。・・・ややあって小さく鼻をすすり上げた少年の唇から、
切れ切れの言葉が零れた。

「父さん・・・。・・・“もうすぐ”って、いつなの・・・?」

この手紙が少年の許へと届いたのは、今から一年以上も前のことだ。それ以来、この手紙が少年の
唯一の“生きる希望”となっていた。

「母さん、ぼく・・・いい子にしてるよ。・・・これからも、ずっとする。・・・だから、・・・」

便箋を握り締める手に力が籠もる。少年の頬を伝った涙が、雫となって便箋へと滴り落ちた。

「・・・早く、帰ってきて・・・」


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