Cross Colors  プロローグ      3        エピローグ

 −3−

(む・・・)

セリエが意識を取り戻したのは、大きなベッドの中だった。かけられていた布団を跳ね除けるとベッド
から飛び降り、セリエは油断なく辺りを見回した。

(ここは・・・)

豪華な調度品の置かれた二間続きの部屋。窓からは見覚えのある庭園が覗いており、どうやらここは
宮殿内の一室のようだった。
素早く自分の身なりを確認する。剥ぎ取られていると予想していた具足は意外にも元のままであり、
あろうことか愛用の短剣までが枕元にきちんと置かれていた。仮にも暗殺者である自分に対する
扱いとしては好意的過ぎる気がして、束の間セリエは唖然とした。

(一体、何を考えて・・・ん?)

セリエの起き出した気配に気付いたのだろうか。廊下の方からぱたぱたという軽い足音が聞こえ、
ややあって一人の人物が部屋に顔を見せた。鶸色のローブをまとった相手は、冷たい目でセリエの
ことを一瞥すると口を開いた。

「ああ、目が覚めたのですね。気分はどうですか?」
「お前は誰だ。私を・・・どうするつもりだ!?」
「私はヴィスタ、ロアノーク宮廷の記録官です。・・・どうにかするつもりがあるのなら、とっくにして
います。わざわざ好き好んで、暗殺者をベッドに寝かせたりすると思いますか。」
「な・・・」

つかつかと自分の方に歩み寄ってきた相手・・・ヴィスタと名乗った竜は、そのままセリエの目の前で
立ち止まった。
相手の方が、セリエよりも頭一つ背が高い。セリエの全身を眺めていたヴィスタは、やがて小さく鼻を
鳴らした。

「ふーん。ユーニスに劣らない遣い手だと聞いたけれど、どんな相手かと思えば・・・まだほんの子供
なのね。」
「何だと、この・・・ッ!!」

いかにも人を小馬鹿にしたようなヴィスタの様子に、顔を赤くしたセリエは枕元に置かれていた自らの
短剣を手にとってそれを薙ごうとし・・・そのままつんのめった。

「な・・・!?」

愛用の短剣。羽毛のように軽いはずのそれが、ベッドの枕元からぴくりとも持ち上がらないのである。
その様子に、ヴィスタが口元を歪める。

「あらあら大変・・・ご自慢の剣も持てなくなったの?」
「貴様・・・一体、何をした!!」
「別に。その剣を、少し重くしただけ。」
「重く・・・!?」

そんな技は、見たことも聞いたこともない。僅かに青ざめたセリエに向かって、ヴィスタがその心の内を
見透かしたようなことを言う。

「そうです。その気になれば、あなたを押し潰すことなんて簡単なのですよ。もう少し、態度に気を
付けなさい。」
「な・・・何だと貴様!!」
「全く・・・あなたたち人間は、いつもそう。私たちが、あなたたちの生活を脅かしたことがあったかしら。」
「そ・・・それは・・・ッ!」
「陛下は何か、殺されるような悪いことをされたのかしら。ぜひ、教えて欲しいものだわ。」
「姉さん!」

唇を噛んだセリエが項垂れたとき、二人目の人物が部屋に姿を見せた。腰まで届くウエーブの
かかった金髪を具えた相手は、腰に手を当てるとヴィスタに向かって口を尖らせた。

「もう・・・ヴィスタ姉さんったら! 暗殺者さんのことは気にしてないって、陛下は言ってたでしょ?」
「エクル、止めなさい。忌むべき暗殺者に向かって“さん”付けなど・・・」
「だって、名前が分からないんだから仕方ないじゃない。」

不快そうに眉を上げるヴィスタ。そんなヴィスタの様子に頓着せず、ベッドにちょこんと腰かけた
相手が、にこにこしながらセリエに話しかけた。

「姉さんの言ったことは気にしないでね。陛下が命を狙われたってことで、気が立ってるだけだから。
・・・ああ見えて、姉さんってば本当に陛下のことを大事に思ってるんだから。」
「あ・・・ああ。そうなのか。」
「あ、あたしエクル。宮廷の近衛隊の副隊長をしてるの。ね! あなた、ユーニスのいた国から
来たんでしょ?」
「ああ・・・そうだが。」
「やっぱり! 陛下の話からね、そうじゃないかって思ってたんだ!」

相手のあまりの屈託のなさに戸惑いながらも、セリエは自らの疑問を口にした。

「・・・やはり、本当なのか? ユーニス様が、ここにいらしたというのは・・・」
「え? あなた、ユーニスのことを知ってるの?」
「知っているも何も・・・我が一族は、ユーニス様によって救われた。・・・果て無き戦乱の中で、我らに
希望を与えてくれたのはユーニス様だった。だから祖父も、父も・・・そして私も、アルバ帝国のために
命を擲つと決めたのだ。そう・・・ユーニス様が作られた国にな。」
「へえ・・・。だけど、ユーニスが作ったといえば、このフェスタだってそうなんだよ。」
「どういうことだ?」


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