Cross Colors
プロローグ
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エピローグ
−4−
首を傾げたセリエに向かって、エクルは得意気な様子で説明を始めた。
「あたしたちの国はフェスタって名前なんだけどね、これが決まったのは今からほんの五十年ほど
前のことなの。当時こっちに渡ってきたユーニスと、結婚した今の竜王陛下とで、この国を新しく
作り直したんだ。」
「結婚・・・。・・・やはり、ユーニス様があの竜王と結婚したというのは、本当のことだったのだな。」
「そうだよ。何たってね、二人には息子さんもいるんだからね!」
「まさか! 我々人間と穢れた竜との間に、子孫ができるはずが・・・」
「お黙りなさい。」
氷のような声が浴びせられ、同時にベッドの枕元に置かれていた花瓶が何かに押し潰されたように
粉々になる。続いてヴィスタに殺気の籠もった目で睨み付けられ、セリエはたじたじとなった。
「穢れているのはどちらですか。過去幾度となく、一方的にこの地を侵そうとしてきたあなたたち人間の
方ではないのですか。」
「・・・・・・。」
「私は、ユーニスを・・・そして、ユーニスが作ったこの国を貶める者は許しません。」
「あー、お客さん起きたー? 具合はどう?」
ここで、三人目の人物が部屋の戸口に顔を見せた。竜王と同じ銀髪を具えた相手は、セリエに
向かってにっこり笑うとひらひらと手を振った。
「あ、エリカ姉さん! うん、大丈夫みたいだよ。」
「んじゃ、そろそろ行こっか。みんな、中庭で待ってるよ。」
「行くとは・・・何のことだ?」
「ふふーん。これからね、みんなで北大陸に行くんだよ。」
「皆、準備の方は整っているのですか? 仮にも、陛下ご自身がお出でになるのですよ。」
「それがさー、ミリオなんてはしゃいじゃって。・・・戦いに行くんじゃないって何回言ってもさ、剣を
離そうとしないんだよねー。」
「全く・・・。いつまでたっても、あの子は子供なんだから。」
「でも、ユーニスの故郷が見られるんでしょ? あたしも楽しみだな!」
エリカと呼ばれた竜が小さく肩を竦め、その隣でヴィスタが溜息をついた。はしゃぐエクルの様子を
眺めながら、セリエは心の中で首を傾げた。
(一体、何の話なのだ・・・)
先程から、一向に話が見えてこない。混乱するセリエを他所に、三人の話は続く。
「やはり、決戦になりそうなのね?」
「そうみたい。今、両方がローランド平原ってところで睨み合いになってるって。まだ間に合えば
いいんだけどねー。」
「見通しは? 陛下は何て言ってた?」
「うん。向こうでも話をしてきたけどさ、やっぱりどう考えても反乱軍のほうが優勢だって。ミリオもノクトも
そう言ってたし・・・」
「そう。・・・確かに、開戦したら帝国軍は持たないわね。」
「何だって!?」
不意に状況が飲み込めたセリエは、思わず悲鳴のような声を上げた。
ローランド平原は、アルバ帝国内でも随一の広さを誇り、また東部諸州の中心であるタペラ州のほぼ
中央に広がるなだらかな平野である。領内でも一二を争う穀倉地帯であるこの平原の西端には、
帝国の陪都であるグランフォードが位置しており、ここまで反乱軍の侵入を許したということは、
グランフォードの命運が風前の灯であることを意味している。
しかし、セリエが北大陸を出る直前、帝国東部で散発していた反乱はまだアントリム州内に収まって
いたはずだ。それが、自分が北大陸を離れている僅か十数日の間に、タペラの半分以上を席巻したと
いうことなのか。
今両軍がぶつかり合えば、数だけの帝国軍が壊滅することは目に見えている。そうなれば、
南大陸への侵攻どころではない。帝国は持てる全ての力を振り絞って、帝都カナネアの防衛に
努めなければならないだろう。いや、それでも反乱軍を防ぎ切れるかどうか。
このような事態を防ぐため、なんとしてでも竜王の暗殺を成し遂げなければならなかったというのに・・・
全ては、手遅れになってしまったということなのか。
「私は・・・私は、どうすれば・・・ッ!?」
「だから、それを止めに行くんだってば。」
「しかしな! 一体、どうやって北大陸に渡るつもりなのだ!? 今ここからなら、ローランド
平原まで戻るには早くて十日はかかる!! それも、風と潮に恵まれた場合の話だ!!
間に合う・・・わけがない!!」
頭を抱えたセリエに食ってかかられたエリカが、涼しい顔で答える。
「あ、それなら大丈夫だよ。多分、二時間もあれば向こうに行けると思うよ。」
「そんな馬鹿な!!」
「私たちは竜です。竜術の中には風を操り、それに乗って移動する術があるのです。」
「しかし・・・しかしな! それでは何故、竜王が我らの戦いに口を出すのだ!? ・・・まさか、
北大陸を攻め取るなどと・・・」
「あなたたち人間と一緒にしないで。その気があるならば、当の昔にそうしています。」
ぴしゃりと言い切るヴィスタ。泣きそうに表情を歪めたままのセリエに向かって、エクルが説明する。
「あのね。陛下もね、ユーニスの作った国がなくなるのは嫌なんだって。だから、あたしたちが北大陸に
行って、戦争をやめさせるの。」
「戦を止めさせるだと!? 簡単に言うな!! 平和ボケした貴様らには分からないだろうが、
戦を止めさせるのは並大抵のことではないのだぞ!?」
「それは、向こうに行ってからのお楽しみ! さ、行こ行こ!!」
にっこりしたエリカがセリエの手を取る。それに半ば引きずられるようにして、セリエは部屋を後に
したのだった。