Cross Colors  プロローグ              エピローグ

 −エピローグ−

「これから・・・どうするんだ。」
「・・・え?」

去っていくアルバ帝国軍をぼんやりと見送っていたセリエは、背後からかけられた声に振り向いた。
そこには、竜王アイザック・・・風竜のヒューが立っていた。その“子供たち”は、少し離れたところで
一塊になっている。

「これから・・・アルバ帝国は、どうなるのだろうか。」
「そうだな。領土は小さくなると思うが・・・あの指揮官みたいな奴がいれば大丈夫、なくなったりは
しないさ。まあ、後はこの地の人間たちが決めることだけどな。」
「そうだな・・・」

呟くように言ったセリエは、再び去り行く帝国軍に目をやった。舞い上がる土煙はかなり小さくなって
おり、それが視界から消えるのももう間もなくのことだろう。

「良かったらだが・・・。オレたちと一緒に来ないか?」
「え?」
「あんたは、オレに言ったな。ユーニスの作った国を守るために、ここに・・・南大陸に来たと。」
「ああ。・・・そうだったな。」
「今のフェスタは、オレとユーニスで作ったようなもんだ。もし、その気があるんなら・・・」

そう言えば、あのエクルという近衛隊の副隊長も同じことを言っていた。今の竜たちの国は、ユーニスと
この竜王が作ったのだと。・・・そこで暮らしてみるのも、悪くないのかも知れない。

「幸いあんたには、竜術の素質もあるし・・・な。」
「竜術? ・・・お前たちの使う、あの術のことか?」
「そうさ。オレたち竜には七つの種族があるんだが、あんたにはその七つの種族の術全てを操ることの
できる素質があるんだ。オレたちはそれを、“竜王の竜術士”と呼んでる。」
「竜王の・・・竜術士。」
「ああ。初めての“竜王の竜術士”はユーニスだった。あいつが死んだ後は、なり手もいないままで・・・。」
「・・・・・・。」
「だから。良ければユーニスの跡を継いで、竜王の竜術士になってくれないか?」
「私が・・・ユーニス様の、跡を・・・?」
「ああ。・・・まあ、気が進まないなら無理にとは言わないが。」

国が二つに割れる事態になったとき、一族の大半は斜陽のアルバ帝国を見限り、反乱軍に身を
投じることを決意した。どうしてもユーニスへの恩義を捨て去ることを肯んじられなかったセリエは、
弟のルカと数名の腹心の部下だけを連れて兄の率いる一族と袂を分かち、その足で竜王を暗殺
するべく南大陸を訪れたのだった。しかし、その弟も部下も既に亡く・・・例え故郷に戻ることが
できたとしても、そこにセリエの居場所はない。
それならば。かつて自分たちを救ってくれた『明星』が作ったという、もう一つの国で暮らしてみるのも
一興だった。かの地で暮らす竜たち・・・そして、生涯の伴侶として選んだという竜王アイザックの、
どんな部分がユーニスをそこまで惹き付けたのかも気になった。
アルバ帝国・・・その帝都カナネアの方角を眺めながら、セリエはゆっくりと頷いた。あの地を自分が
訪れることももうない。

「いいだろう。・・・この地で、私の成すべきことはもう無いようだからな・・・」
「そうか。じゃ、行こうぜ。」

破顔したヒューが、手を差し出した。その手を取ったセリエは、初めての微笑をヒューに向かって
浮かべたのだった。

「ああ。これから、よろしくな・・・竜王殿。」


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