WHITE MANE
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時が経つにつれ、ユスナにも少しずつ状況が飲み込めてきた。
コノと名乗った少女がたどたどしく語ったところによると、どうやら彼女の村は病に襲われている
らしかった。症状から、この辺りに広く分布している風土病の一種と分かる。
それを「山の神」の怒りだと解釈するところは、いかにも未開の地に住む人々らしかった。この少女は、
恐らくその山の神の怒りを鎮めるための生贄として捧げられたのだろう。
(祟り・・・ねえ)
腕を組んだユスナは、この辺りの山に棲む精霊たちの顔ぶれを思い起こした。
確かに、人間たちが度を越して自然を傷つけた場合、それに怒った精霊たちが“祟り”と呼ばれ得る
ような報復をすることはあるかも知れない。しかし、少なくともこの辺りに住む「山の民」と呼ばれる
人々は分をわきまえた生活をしており、また“祟り”を起こしそうな気の短い精霊の心当たりもない。
・・・つまり、今回の「祟り」は、単なる自然現象であるということだ。もしくは、「単に運が悪かっただけ」と
言い換えてもよかった。
それにしても、気の毒なのはこのコノという少女だった。
一旦贄として捧げられた以上、村に戻ることもできない。それが神の更なる怒りを呼ぶと恐れをなした
村人たちによって、今度は死体でここに連れてこられるのが関の山だろう。
(・・・僕が、もらっちゃおうかな)
ふと、突拍子もないイタズラ心が芽生える。
この騒ぎが単なる自然現象である以上、コノがここでいくら待ったところで“神”が現れるはずがない。
ではもし、これが自分の仕業だということにしてしまえば―――――?
どうせ、戻るところもないのだ。このまま野垂れ死にさせてしまうのも気が引けるではないか。
この考えにすっかり悦に入ってしまったユスナは、思わずにやりと笑った。
「あ・・・あの?」
深刻な表情を浮かべたり、そうかと思えば急ににやにやしたりするユスナの様子を、隣でおっかな
びっくり眺めていたコノが恐る恐る口を開く。そんなコノに向かって、ユスナは必要以上にしかつめ
らしい顔をしてみせた。
「あ・・・ああうん。どうだ、やっとお前たちの愚かさが分かったか!」
「へ・・・へへえっ!」
「まあいい。お前を差し出すなど、反省の色も見えるようだし・・・今回はこの辺りで勘弁してやることに
する。今後は、発病した者が立ち入った場所には、近付かないように。」
「はい! あ・・・ありがとうごぜえます!」
この風土病は、特定の虫に咬まれることで発病するものだ。その虫がいる場所に近付かなければ、
これ以上の被害は避けられるはずだ。
ふんぞり返ってそこまで言ったユスナは、携えていた小さな麻袋の中に手を突っ込むと、小さな種を
数個掴み出した。
「ああそうだ・・・コノ、君の村にいる人の数は?」
「数? え・・・えーと・・・」
両手で指折り数を数え始めたコノの様子に、ユスナは苦笑いをすると手を振った。
「ああ・・・分かった分かった。・・・これで、足りるといいけど・・・」
「?」
不思議そうに首を傾げたコノの前で、種を握ったユスナは目を閉じた。
(す・・・すごい・・・!)
驚きに目を瞠ったコノの前で、次から次へと虚空から木の葉が舞い落ちてくる。程なくして、それは
小さな山になった。
「ふー・・・。さてと、これでいいだろう。」
「あの・・・これは?」
「これをすり潰して、病気の人に飲ませるといい。一回分が一枚で、治るまで続けるんだよ。」
軽く肩を叩いていたユスナは、薬草の山をコノに向かって押しやった。
「君の手で、村へと届けてあげるといい。」
「あ・・・あの、ありがとうごぜえます!」
「あーまた、ほら・・・そうやってかしこまらなくていいから。」
「でも、ユスナさま・・・」
「様は禁止。・・・僕はここで、君が戻ってくるのを待ってるからね。戻ってきたら、君を僕らの里へ
連れていく。」
ここで陰のある笑いを浮かべたユスナは、薬草を持ったコノに向かって指を突き付けた。
「くれぐれも、逃げようなんて考えちゃダメだよ。僕には何でも分かるんだからね。」
「は・・・はい、それはもう。では・・・。」
「ああ。また後でね。」
こうして、振り返っては自らにお辞儀をしながら去っていくコノを見送ると、ユスナはその場にごろりと
寝転がったのだった。
(ふふ・・・早く、戻ってこないかな♪)