WHITE MANE          5         

 −5−

「もう・・・人間を里に連れ帰るなんて、どういうことなの!?」
「そう怒るなって。大丈夫、見ればすぐ分かるよ。」
「大兄様は、いつもそうだわ! 大事なことは一人で決めちゃって・・・!」
「あ・・・あのう・・・」

脱衣所から顔を出したコノが、居間に向かって恐る恐る声をかける。その声に、居間で言い争いを
していた二人がコノの方を振り向いた。

「あの、これ・・・これも、つけるんですか?」

家に戻ったユスナが、最初にコノに勧めたのが水浴びをすることだった。
コノは、それに素直に従った。神に身を捧げる際には、沐浴して身を清めるのが一般的である。
これから自分がどうなるかは分からなかったが、何らかの儀式が行われるのは間違いないと思った
からだ。
ところが、水浴びを済ませたコノが浴室から出てみると、そこには今まで着ていた巫女装束に
代わって、見たこともないような豪華な服と煌びやかな装飾品の数々が用意されていたのだった。
見かけこそ少女然としていたものの、コノはれっきとした男だった。こうした装飾品など手にしたことも
ない。辛うじて服を着ることはできたものの、髪飾りを初めとした装飾品など、どうやって身に付けて
いいか分かるはずもなかった。

「あら・・・あなたが?」

居間には、いつの間にかユスナの他にもう一人の人物がいた。
自分より幾らか年上に見える少女。釣り目がちの瞳がきつそうな印象を与える。
つかつかとコノの方に歩み寄った少女は、小さくなっているコノを頭の天辺から爪先までじっくりと眺め
・・・やがて、大袈裟に肩を竦めると大仰に溜息をついてみせた。

「やれやれ・・・大兄様の言った意味が、よーく分かったわ。これなら、皆も納得せざるを得ないで
しょうね!」
「だろ?」
「得意げな顔をするのはやめて。」

ユスナの方を勢いよく振り向いた少女は、腰に手を当てるとユスナを睨み付けた。

「まさか・・・大兄様。コーセルテルに今でも行ってたのは、もしかしてこの子を・・・」
「だったら、どうするんだい?」
「どうもしないわ。・・・ただ、里の娘たちは悲しむでしょうね。」
「いいだろ。それに、これは僕の勝手なんだしさ。」
「今に、後ろから刺されても知らないから!」

とんでもないことをあっさりと言い放つと、コノの方を振り向いた少女はにっこりと笑った。

「いらっしゃい。私が手伝ってあげます。」
「ど・・・どうも、すまねえです。・・・あの・・・」
「ああ、私はミンカ。ユスナ様をお助けするのが務めなの。」
「ミ・・・ミンカさま。おらは、コノといいます。」
「コノさん。よろしくね。」
「あ、はい・・・こちらこそ。」

ミンカに連れられて、脱衣所へと戻るコノ。その後姿に向かって、ユスナが言った。

「支度ができたら、軽く腹ごしらえして・・・それから出かけるからね。」
「出かけるって・・・あの、どこへ?」
「これから、大事な会議があるんだ。・・・まあ、そう思ってるのは長老たちだけなんだけどさ。」
「もう、大兄様ったら! そのような考えは慎むようにと、この間もあれほど・・・」
「いちいちうるさいなあ。だって実際そうなんだから、仕方ないだろう?」
「大兄様!!」

自分から“ユスナを助けるのが務めだ”と言った割には、ミンカはユスナと仲が良くないのかも
知れない。
身繕いの手伝いも忘れて再び言い合いを始めた二人を眺めながら、困った顔をしたコノは小さく
溜息をついた。


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