WHITE MANE            6       

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会議が行われるという「公会堂」は、“里”の中心にある石造りの建物のうちの一つだった。
ユスナとコノ、そしてミンカがそこに到着したときには、既に公会堂には二十人近い住人が顔を揃えて
いた。その中には、“里”の入り口でユスナのことを“兄さん”と呼んだ青年の顔もあった。
こうして、三人の到着を待ち兼ねたようにして会議が始まった。だが、その間中・・・ユスナの後ろに
控えさせられたコノは、真っ赤になったまま顔を上げることができなかった。

(は・・・はずかしい・・・)

今まで、自分の容貌を誇りに思ったことはなかった。村では侮蔑の対象でしかなかったし、自分でも
長い間そう思い続けてきた。
家を出る前に、見せられた鏡。あの中に映っていたのは、本当に自分だったのか。
その可憐さは自分でも驚くほどであり、道すがら自分に向けられた“里”の住人たちの視線や態度は、
それが真実であることを如実に物語っていた。
自分は、本当は男なのに。
持たされた杖を握り締める手に、知らないうちに力が籠った。・・・自分が皆にどう見られているかを
考えるだけで、恥ずかしくて顔から火が出そうになる。ユスナの話も、ろくに聞こえない。

「・・・以上。何か質問は?」
「特にありません。・・・今までのところは。」
「何だい、持って回った言い方をするじゃないか。言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ?」
「それでは、言わせていただきますが。・・・その人間は、一体何のおつもりなのです? 里に人間を
連れてくるなど、一族の掟にも・・・」
「これは、僕の嫁だ。」
「えええええ!?」

大真面目な顔でユスナが言う。ミンカを除き、この爆弾発言に集まっていた者たち全員が目を剥いた。
もちろん、その中にはコノ自身も含まれている。

「しっ・・・しかし、長・・・」
「嫁くらい、僕に選ばせてくれたっていいだろう。・・・何だい、顔を合わせるたびに“結婚しろ”って
うるさかったくせに。」
「長! それとこれとは・・・」
「僕がこの子を選んだ理由は、お前たちにもよく分かるはずだ。」

公会堂に集まっていた者たちに一斉に見つめられ、コノは真っ赤になると下を向いた。
所詮、自分は人間なのだ。例え女だったとしても、“神”の嫁になるなど無理に決まっている。
しかし、「こんな人間のどこが!」という罵声を浴びせられるだろうというコノの予想とは裏腹に、自分を
見る皆の目はなぜか眩しそうだった。それどころか、しばらくすると不承不承ながら頷く者も出始めたの
だった。

(ど・・・どういうこと・・・?)

「た・・・確かに、長のお考えは分かりました! ですが・・・それでは、長のお子は・・・!」
「もう、決めたことだ。この子でなければ、僕は嫁はとらん。」
「そんな、無茶な・・・」
「さ、コノ・・・挨拶して。」

こうして、自分でも何がなんだか分からないうちに、コノは皆の前で頭を下げることになったのだった。

「あの・・・コノです。よ・・・よろしくお願いします。」


  *


「い・・・一体、あれはなんのつもりですか!」

家に戻るなり、コノはユスナに向かって食ってかかった。肩を竦めたユスナがしれっとした顔で答える。

「何って・・・。言ったろう、僕は君と結婚するんだって。」
「でも! おらは・・・おらは、男なんですよ!?」
「そんなことはどうでもいい。」
「は!?」

“嫁”として、一番の問題になるはずの事実をあっさりと流され、コノは目を丸くした。そんなコノを、
ユスナはいつになく恐ろしい目で睨んだ。

「いいかいコノ。君は、僕に捧げられた贄なんだ。だから、君は僕のものであって・・・君をどうしようと、
僕の勝手のはずだ。違うかい?」
「それは・・・その。」

確かに、その通りだった。それに、当初コノが予想していたように、実際に食べられてしまうことに
比べれば余程マシであることも確かだろう。

「だから、僕は君を“嫁”に迎えよう。・・・嫌とは言わせないよ。」

有無を言わせぬユスナの言葉に、コノは俯いた。
それにしても、男の自分がまさか森の神の“嫁”にされることになるとは。・・・命が助かったと喜ぶべき
なのか、それとも男として侮辱されたと憤るべきなのか。
そんなコノの逡巡を知ってか知らずか、ユスナは近くにあったソファーに身を投げ出した。

「・・・正直、鬱陶しいんだ。」
「う・・・うっとうしい?」
「いや、長老たちがさ。僕の顔を見るたびに、結婚はまだかってうるさくてさ。・・・人の気持ちも考えない
でさ、やんなっちゃうよ。」
「でも・・・やっぱり、おらと結婚なんて・・・」
「君だから、皆も納得した。」
「おら・・・だから?」
「ああ。」

本当は、何故なのか尋ねたかった。自分のどこに、“里”の皆を納得させる部分があったのか。しかし、
このときのユスナは、それを尋ねるのを憚らせるような雰囲気だった。

「だから、しばらくは僕の花嫁の役を演じてもらえればいい。もちろん、家には僕ら二人きりだから
余計な邪魔が入ることもないし・・・今のところ、君にそれ以上を求めるつもりはないから。」
「それ以上って・・・あ!」

ユスナの意図するところを察したコノは、思わず真っ赤になった。その様子に、ソファーに寝転んだ
ユスナはにやりと笑った。

「まあ、理由は色々あるけど・・・何より、君は綺麗だしね。」
「きれい・・・ですか?」
「ああ。少なくとも僕にとっては、この里の誰よりもね。」
「・・・・・・。」

面と向かって、誰かに褒められたのは初めてだった。
ユスナのこの言葉に、何か変だと思いながらも・・・コノは思わず頬を染めて俯いたのだった。


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