EARTH BEAT
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「・・・と、いう訳なんだ。私は別に、何かを意識して行ったわけではない。」
ティエンに付けられていた護衛の名は、クラカといった。居室に戻り、事情を説明し終えたティエンを、
そのクラカが期待に満ちた目でじっと見つめる。
「・・・しかし、私はレリスが木竜術を遣うところを、はっきりとこの目で見た。貴殿がそのきっかけを
与えたことは、まず間違いないはずだ。」
「レリス?」
「ユーカトリア様の一人娘だ。今までは術の一つもままならず、それが災いしてあのような内気な性格に
なってしまっていた。・・・だがそれも、既に過去のこと。貴殿は今、あの子を救ったのだ!」
ここまで言ったクラカは、その場に跪くと深く頭を垂れた。
「貴殿に、改めて頼みたい。私にも、レリスと同じく竜術の稽古をつけてはくれないだろうか。」
「何・・・?」
「私に出来ることは何でもしよう! ・・・頼む、この通りだ!!」
頭を下げたまま、その場で身動ぎもしないクラカを困ったように眺めていたティエンは、やがてその前に
膝をついた。
「・・・頼むから、顔を上げてくれ。竜術というのは、お前たち竜にとってそれほどに大切なものなのか?」
「言わずもがなのことだ。竜術が遣えぬ竜など、一人前と認めてもらえぬばかりか、まるで片端の扱い
なのだぞ!?」
「しかしな・・・。お前には、剣術の心得もあるのだろう? たかが竜術がままならないくらいで、その
ような―――――」
「貴殿ら人間の場合は、どうなのだ!? 知恵の遅れた子供、戦で手足を失った兵。こうした者
たちが、“役立たず”と見做されて捨てられることは無いと言い切れるのか! 我々真竜族にとって、
竜術とはそれほどの意味を持つものなのだ!!」
「・・・・・・。」
「・・・私の場合も、そうだった。」
ティエンのことを睨み付けていたクラカが、ここで悔しそうに下を向いた。
「何時まで経っても術を遣えるようにならぬ私に、両親は・・・そして里の皆は苛立っていった。そして
私は、里を追放されるような形で後にせざるを得なかったのだ。ここでガリアティード様と出会わねば、
今頃どこかで野垂れ死にしていたであろう。」
「・・・・・・。」
「レリスを抱え、行く当ての無かったユーカトリア様も、こうしてここで暮らすようになられたと聞いて
いる。ガリアティード様の周囲の者は皆、多かれ少なかれ同じような事情を抱えているのだ。」
僅かに顔を上げたクラカが、腰の細剣を握り締めた。そして、それをじっと見つめる。
「私も本当は、ガリアティード様の片腕となって戦場を駆け巡りたい。命を懸けて、その理想の実現に
向けてのお手伝いをしたいのだ。・・・しかし、術の一つもままならぬこの身では、徒に迷惑をお掛け
することにしかならぬ。だから私は、何としても術を遣えるようになりたいのだ!」
この言葉を最後に、しばらくの間二人は黙り込んだ。ティエンの深い藍の瞳と、クラカの若草色の瞳。
二人の視線が交錯する。
(・・・・・・)
やがて、口を開いたのはティエンの方だった。小さく肩を竦めると、跪いたままのクラカに向かって
諦めたように言う。
「・・・仕方ないな。そうまで言われては、断り切れるものではない。」
「本当か!? かたじけない、ティエン殿!!」
「ただし、絶対の保証はできない。先程も言ったように、私自身・・・自分が何をしたのか、未だによく
分かっていないのだからな。これから時間をかけて術について調べ、その都度お前にも立ち会って
もらうことになる。それでも、構わないと言うなら―――――」
「その程度の労苦、何程のことがあろう! 何でも言ってくれ!」
「あ・・・ああ。分かった。」
「その間、貴殿の身の安全は、私の一命を賭して守り抜いてみせよう!」
嬉し涙さえ浮かべ、クラカがティエンの両手を強く握り締めた。意気揚々と部屋を出ていくクラカの
後姿を半ば呆気に取られて見送っていたティエンは、ここで小さく肩を落とすと溜息をついたの
だった。