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HAPPY BIRTHDAY


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きっかけは、ランバルスの何気ない一言だった。

「おいロービィ、たまにはお前らも寄り合いをやってみたらどうだ?」
「え?」

朝食を済ませ、使い終わった食器を台所へと運んでいたロービィは、ランバルスの言葉に目をぱちくり
させた。

「寄り合い・・・って、補佐の人たちがやってるっていうあれですか?」
「そうだ。たまには、お前たち二番竜の集まりがあってもいいだろう。」
「はあ・・・」
「なんだ、あまり乗り気じゃなさそうだな。」

食後の紅茶のカップを片手にしていたランバルスは、冴えない表情になったロービィの様子に眉を
上げた。
もちろん、自分たちの世代だけの集まり・・・というものに興味はある。普段はあまり地竜術士の家から
出ないだけに、同世代のメンバーに会ってみたいという気持ちは人一倍あるロービィだったが・・・
いかんせんその真面目な性格が、あっさりと「じゃあやります」と口にするのを躊躇わせているの
だった。
そう、ことは「女の子と会う口実が欲しい」という単純かつ非常に強力(そして邪)な理由から補佐竜の
寄り合いを計画し、強引に開催に漕ぎ着けた“誰かさん”の場合とは大きく異なるのである。

「何か問題でもあるのか? あるいは、やりたくない理由でも・・・」
「いえ、そうじゃないんですけど・・・うまく行くか分からないし、それにやらなくちゃいけないこともたくさん
あるし・・・」
「やらなくちゃいけないこと?」
「日課の勉強、それから家事の手伝いがあるじゃないですか。畑だって・・・」
「ああ、そういう意味か。」

カップを机の上に戻し、真面目な顔になるランバルス。

「いいかロービィ、俺だって単に『遊んで来い』って意味で言ったんじゃないぞ。これには、ちゃんと
一人前になるための“修行”が含まれてるんだからな。」
「そうなんですか?」
「ああ。さっきお前が言っただろう・・・『うまく行くか分からない』って。その通り、この寄り合いをちゃんと
開催するにはやらなくちゃいけないことがたくさんある。」
「例えば、どんなことですか?」
「まず誰が参加してくれるのか調べなきゃいかんだろう。それから、やる場所と時間を決めて・・・
もちろん、参加者の希望や都合を尊重しながらだ。そして、当日何をやるのかも考えなきゃいかん・・・
必要なものの調達もな。」
「うわぁ・・・」

寄り合い開催に必要な作業をランバルスに列挙され、ロービィは驚いた表情になった。確かに、
「やりましょう」と言うだけでは寄り合いは開催されない・・・具体的な準備が必要なのだった。

「どうだ、大変そうだろう。だが、こうした経験は、将来人の上に立つことになるお前には必ず必要に
なるはずだ。そういう経験を今からしておくのも、悪くないと思うぞ。」
「はい・・・そうですね。」

次第に期待にわくわくする表情になったロービィに、ランバルスは微笑んでみせた。

「よし、じゃあ具体的な方法だがな・・・そうだな・・・」

しばらく周囲を見回していたランバルスは、やがて台所で朝食の後片付けをしているユイシィに入り口
越しに声をかけた。

「おーいユイシィ、回覧板はどこやったっけ?」
「玄関にあると思いますけど・・・今度は何をするつもりなんですか?」
「・・・“いいコト”だよ。」
「そうですか。」

手を休め、振り返ったユイシィに向かってランバルスはにやりとしてみせた。その様子に、ユイシィは
小さく肩を竦めると再び洗い物の山に向き直った。

「よしあった・・・これだな。」

玄関にあった回覧板を手に取ると、ランバルスはそこに何事かを書き込んだ。そして、それを
ロービィに手渡す。

「ほれ。これを持って、今日一日で全部の竜術士の家を回るんだ。」
「あの・・・ぼく一人でですか?」
「そうだ。もちろん、それには理由があってだな・・・」

ここまで言ったランバルスは、腰をかがめると内緒話をするようにロービィの耳に口を寄せた。

「いいか、この回覧板は必ず竜術士に直接見せるんだ。そして、二番竜以外の奴には知られない
ようにする・・・これが肝心だな。」
「どうしてですか?」
「そりゃあお前・・・このことを知られたら寄り合いがめちゃくちゃになりそうなのが何人かいるだろうが。
俺の口からは、あえて誰とは言わんがな・・・。」
「あー・・・そう言えば。」

人を悪く思えない性格のロービィの台詞に、ランバルスは苦笑してみせた。連られてロービィも思わず
苦笑いする・・・確かに、現在のコーセルテルには色々な意味での“危険人物”が何人か存在するのは
事実だった。

「それに、お前が直接行った方が早く話が進むだろう。・・・じゃ、頑張れよ。」
「はい。あ、でも・・・みんなのところを回るとなると一日かかっちゃいますね。あんまり遅くなると、
ユイシィに心配かけちゃう・・・」
「大丈夫だ、今日は一日俺が家にいるからな。ユイシィには俺から話をして、お前の分の家事は俺が
片付けておくから・・・心配しないで行ってこい。」
「はい!」

回覧板を抱えて駆け出していったロービィの後姿を戸口で見送るランバルス。いつしかその傍らに
立っていたユイシィが、ランバルスを上目使いに見上げながら声をかけた。

「・・・結局、ロービィには何も・・・?」
「ああ。・・・そんな顔するなよ、こういうのは内緒にしておくのがいいんじゃないか。そうだろう?」
「もう・・・師匠ったら。」
「それより・・・そっちこそ、準備はちゃんと出来てるんだろうな?」
「師匠じゃあるまいし・・・一緒にしないでください。」
「そりゃ悪かったな。」

苦笑して頭を掻きながら、ユイシィの後から家の中へと戻るランバルス。

「何か手伝うことはないか? ロービィは今日は一日帰って来ないだろうからな、今のうちにやることは
やっておいた方がいいだろう?」
「そうですね。では、お願いします。」
「おう、任せとけ!」


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