HAPPY BIRTHDAY                    10  11 

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「本日は、遠いところよっようこそ。それではここれより『二番竜寄り合い』を始めたいと思います。
・・・では、最初にまず乾杯を・・・」

緊張でガチガチになっている幹事役のロービィの言葉に、参加者の面々は手元にあったグラスを
取り上げた。

「ふーん。今日はガラスのコップなのね。」
「な・・・何よ。それがどうかしたの!?」

グラスを持ち上げ、品定めするようにためつすがめつしていたクララの言葉に、テーブルの反対側に
いたリタが早速くってかかった。

「別に? ただ、今日もあんたのところの補佐竜が作った『すっとんきょう』なコップが出てきたら
どうしようかと思ってたの。」
「な・・・なんですって!?」
「・・・なぁに? まさか、あんたまであのコップを『すてき』だなんて言うつもりはないでしょうね。」
「えー、そうかなぁ。結構あのデザインしゃれてると思うけど・・・」

と、風竜ならではのこの台詞はもちろんロッタルク。

「確かにメオ兄の作るものはちょっと変わったデザインだとは思うけど・・・よりにもよって『すっとん
きょう』だなんて!」
「“ちょっと”? あらあら、リタ・・・あんたの美的感覚もおかしくなってきたのかしら?」
「へっ・・・変なこと言わないでよ!」
「ね、二人ともそのくらいで・・・まだ乾杯もしてないんだしさぁ・・・」

おろおろしながら仲裁に入るロービィ。
一方、その場の険悪な雰囲気を和らげようとしてか、ファーリルは殊更に明るい声で隣に座っていた
エリーゼにコップの話題を振っていた。

「あ、あのコップならうちにもありますわ。マリエルが補佐竜の寄り合いでいただいてきたんだって・・・」
「・・・・・・。」
「エリーゼさん、ラルカさんもそのコップをお持ちなんですよね。・・・ご覧になったことあります?」
「・・・・・・。」
「私、ああいう斬新なデザインのコップを見たのは初めてで・・・あれが食卓にあると、なんだか楽しく
なりますよね。」
「・・・うん。」
「・・・・・・。」

しかし、エリーゼのあまりの愛想のなさにファーリルは途中から会話を諦めてしまい、悲しげな表情に
なって下を向いてしまうことになったのだった。その隣では、クララとリタに途中からロッタルクを加えた
三人がお互いの「美的感覚」に関する言い合いを延々と続けている。

「ねえ、乾杯まだぁ?」

こうして、一人だけ騒ぎに加わらずにこにこしていたキーニの言葉に、ロービィは頭を抱えたのだった。

(どっ、どうしよう・・・最初からこんな修羅場になるなんて・・・)


  *


それからも、寄り合いは苦難の連続だった。何とか乾杯に漕ぎ着けた後も、やれ味が甘すぎるだの
氷が入ってないのはおかしいだのといった不満の声が主にあの二人から上がり、挙句の果てには座る
位置がおかしいといった言葉まで飛び出す始末。元から火竜と水竜はあまり相性が良くないが、
今日の二人は特に折り合いが悪いようだった。
こうしてことある毎に仲裁に入る羽目になったロービィは、まだ寄り合いが始まったばかりだというのに
くたくたに疲れ切ってしまったのであった。まさに「自分も楽しむ」どころの話ではなかったのである。

「ロービィ、ロービィ。」
「・・・はい?」

ようやく食事・・・という段になって、ぐったりした様子で椅子に座っていたロービィは、お玉を持った
ロッタルクの声にのろのろと首を上げた。

「ごめーん、どうやらスープに胡椒を入れ忘れてたみたいなの。悪いんだけど、胡椒を取ってきて
くれる?」
「えー、なんでぼくが・・・」
「仕方ないじゃない、この家のことを一番よく知ってるのはあなたなんだから。お願いね。」
「・・・・・・。」

あまり食事が始まるまでに時間がかかると、またどこから不平不満が出るか分からない。何となく
釈然としない気持ちになりながらも、ロービィは重い腰を上げると地竜術士の家へと向かった。
しかし、台所に辿り着いたロービィが胡椒入れの蓋を開けてみると、中はものの見事に空だった。

(あーあ、ついてないや・・・)

こうして、溜息を一つついたロービィは予備の胡椒が置いてあるはずの地下の貯蔵庫へと向かった
のであった。


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