HAPPY BIRTHDAY                  9  10  11 

 −9−

こうして、三日後・・・いよいよ初の「二番竜寄り合い」の日がやってきた。
既に、寄り合いの会場となる地竜術士の家近くの草原にはテーブルが置かれ、シンプルなチェック柄の
テーブルクロスがかけられていた。その上にはガラス製の花瓶とコップ・・・言うまでもなく、寄り合い
参加者の一人である火竜のリタの作品である。

(・・・ふぅ)

家の中から人数分の椅子を持って外に出てきたロービィは、その場でしばしの間立ち止まり、ぼーっと
した様子で草原にぽつんと置かれたテーブルを見つめた。そんなロービィに、花瓶に花を活けていた
キーニが声をかける。

「ロービィ、・・・どうしたの?」
「・・・い、いやっ、なんでもないよ!」
「ふぅん?」

急いで返事をしたロービィはテーブルの方へと歩み寄った。そして、テーブルに沿って椅子を並べる・・・
それを手伝いながら、キーニは笑顔でロービィに話しかけた。

「寄り合いは、お昼からだったねぇ。・・・早く始まらないかなぁ。」
「そ・・・そうだね。」
「このお花、ぼくが咲かせたんだ。・・・どう、きれいかなぁ?」
「あっ・・・うん。いいと思うよ。」

どうしてもこの“お茶会”に花が必要だ、と主張したのはクララだった。もちろんロービィに異存は
なかったが、問題はそうした特定の相手の要望ばかりを受け入れていると、他の参加者(特にクララの
場合はリタ)から苦情が出る可能性があったことだった。この件に関しては、ロービィは花をキーニ・
花瓶をリタに頼むことによってバランスを取り、結果として事無きを得ていた。

「・・・ねぇロービィ、なんだか顔色が悪いよ? 大丈夫?」
「だっ・・・大丈夫、大丈夫さ。」

途中から心配そうな顔になったキーニにこう聞かれ、ロービィは慌てて首を振ると笑顔を作った。
しかし、その笑顔を持ってしても、ロービィの顔に浮かんだ濃い疲労と不安の色は隠しようがなかった。

(うぅ・・・頭がボーっとする。・・・やっぱり寝不足のせいかな・・・)

この二日間は、ロービィにとってまさに「死ぬほど忙しい」二日間だった。
寄り合いの場所と日時については「コーセルテルの中央に近い地竜術士の家で、希望者の多かった
三日後に行う」ということが割り合いすんなりと決まった(というより、他に候補もなかった・・・と言った
方が正確である)。
しかし、それからが大変だった。当日各自に持参してもらう品物の割り振り、当日の役割分担から
食事のメニュー、そして食後に行うゲームの内容まで・・・真面目なロービィはまさに「コーセルテル中を
駆けずり回って」何から何まで全員の希望を聞き、それに律儀に合わせようとしたのだった。・・・疲れ
ないはずがない。
そして、普段だったら進んでこうしたことを手伝ってくれるランバルスやユイシィも、今回は“修行の
一環”という名目での開催ということなのか、色々とアドバイスはしてくれたものの具体的な手伝いは
一切してくれなかったのだ。こうして、幹事役のロービィは全てを自分でこなさなければならなかった
のである。

(本当に、うまくいくのかなぁ・・・。みんな、楽しんでくれるといいけど・・・)

更に、何とか開催に漕ぎ着けた当日になっても、ロービィには心配の種が残っていた。
竜術士と一緒に各地に出かける機会の多い補佐竜と違い、二番竜はあまりお互いに面識がない。
もちろん名前くらいは知っているのだが、実際に相手と会うのは今日が初めて・・・というメンバーも
多い。お互いうまく打ち解けられるかは、実際に会ってみないと分からないのだった。
先ほどちらりと厨房を覗いてきたロービィだったが、野菜に火を通すかどうかで揉めているクララとリタ、
そしていつも通り無口で無表情なエリーゼの様子が目に入り、結局前々から抱いていた不安に苛ま
れることになった。椅子を持ったままロービィが思わず物思いに沈んでしまったのには、こんな理由も
あったのだった。

「ロービィ、できたよー! 取りにきてっ!!」
「あっ、いよいよだねぇ。じゃあ、ぼくも飲み物の用意をしてようかなぁ。」

(・・・そう言えば!)

厨房からのロッタルクの声に、ロービィは我に返るとそちらに歩を向けた。その背後でキーニは
にこにこと持参の袋から果物のジュースを取り出したのだが、“飲み物”という言葉にロービィはある
可能性にハッと思い当たった。

「あのさ、キーニ・・・こんなことを聞くのは失礼だと思うけど・・・」
「え?」
「それ・・・毒は入ってないよね? ほら、キーニが作ってくれた後に・・・その・・・」

いくら日ごろの悪戯が過ぎるとはいえ、キーニにとっては尊敬する先輩のはずである。ロイとノイの
名前を明言するのは避け、言いにくそうに“最悪の可能性”について口にするロービィ・・・そんな
ロービィに、キーニはにっこりすると首を振った。

「あぁ、大丈夫だと思うよ。念のために、来るときにカディオにチェックしてもらったし。」
「そう・・・それなら安心だね。じゃ、頼んだよ。」
「うん。」
「ロービィ、まだー?」
「あ、今行きますー!」

再び厨房からかけられた声に、こうしてロービィは急いで家の中へと駆け込んだのだった。


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