HAPPY BIRTHDAY                    10  11 

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パンパンパァン!

「ぅわっ!!」
『ハッピーバースデー、ロービィ!!』

地下の食糧倉庫から胡椒の入った袋を持ってとぼとぼと戻ってきたロービィは、玄関を出たところで
盛大に鳴らされたクラッカーの音に驚いて尻餅をついた。次いで、自分を取り囲むように立っていた
参加者たちから声を揃えてこう言われ、目をぱちくりさせたのだった。
どうやら、ロービィが地下室に行っている間に急いで準備をしたらしい。気が付けば、いつの間にか
ランバルスを初めとした地竜一家の面々もそこに勢揃いしており、テーブルの上にはさっきまで
なかった大きなデコレーションケーキが載っているのが見えた。

「どう、びっくりした? このクラッカーは、あたしが作ったの。」

尻餅をついたままのロービィに手を差し出しながら、ロッタルクがにこにこしながら言う。立ち上がった
後もしばらくの間口をぽかんと開けていたロービィは、やがて思い出したように一言呟いた。

「た・・・誕生日? ぼくの?」
「そうよ。毎年楽しみにしてたでしょう・・・ロービィ、まさか忘れていたの?」

(あ・・・あんまり忙しかったから、すっかり忘れてた・・・!)

呆れたようなユイシィの声に、思わず赤くなるロービィ。その様子を見た面々がくすくすと笑う。

「もしかして、スープに胡椒を入れ忘れたのって・・・」
「そう、わざと。ごめんねー。」
「台所に胡椒がなかったのもそう。ロービィなら必ず地下室に予備を取りに行くって分かっていた
から・・・。」
「おかげで、ケーキを準備する時間ができたんだけどね!」
「じゃあ・・・まさか、みんなが寄り合いは三日後がいいって言ってたのは・・・!」
「うん。カディオが言ってたよ・・・これもランバルスさんの“ねまわし”なんだってねぇ。」
「師匠、それ本当ですか?」
「おう、まあちっとはな・・・おいおい、そんな顔するなよ。どうせなら、みんなで盛大に祝ったほうが
いいじゃないか。」
「でも・・・」
「はい、ロービィ。」

にやにやしているランバルスに向かってなおも食い下がろうとしたロービィに対して、ここで横合いから
小さな包みが突きつけられる。思わずそれを受け取ってしまってから、ロービィは慌てて相手の方へと
向き直った。

「・・・リタ? これは?」
「決まってるじゃない。その・・・たっ、誕生日プレゼントよ!」
「プレゼント? ・・・ぼくに?」
「ほかに誰がいるのよ!」
「あ・・・ありがとう。」

赤くなり、そっぽを向くリタ。中から出てきたのは、誰かを模ったらしい小さなガラスの細工物だった。
その像が被っているバンダナを見たロービィは、これが誰なのかハタと気が付いた。

「これ・・・ぼく? ぼくだよね!?」
「あっ・・・あたしにできるのはこれくらいだから。」
「うわぁ・・・」

感激のあまりガラス像を握り締めるロービィ。マシェルの子竜たちが各竜術士の家に泊まりに来た
とき、火竜のハータはマシェルのガラス像を作ったとロービィは聞いていた。それを目にしたマシェルも
きっとこんな気持ちだったに違いない。

「はい、ロービィ。ぼくからは、これ。」

うっとりとした様子でガラス像を眺めているロービィに、キーニが差し出したのはおしゃれな刺繍の
してある小さな布の袋だった。ふとそれに鼻を近づけたロービィは、その袋からハーブの良い香りが
してくるのに気が付いた。

「ありがとう。これは・・・ポプリ?」
「うん。何がいいかなぁってカディオに相談したんだけど、そうしたら『あいつは苦労性だから、よく眠れる
ようにポプリでも贈ったらどうだ』って言われてねぇ。これ、カモミール・・・あ、葉を乾燥させるのは
クララに手伝ってもらったんだ。この袋を作ってくれたのもクララだよ。」
「クララが?」

(水竜術士の家は、家事は全部リリックさんがやってるって聞いたけど・・・)

びっくりした様子のロービィにまじまじと見つめられ、クララは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「うちじゃ縫い物も全部リリックがやってるから・・・でも、今回はリリックに教わるわけにいかないし。
結局、エレと一緒にこっそり作ったんだけど・・・」
「大変だったよねぇ。」
「うん。・・・もうちょっと普段から縫い物くらいやっておけばよかった。」

俯きながらそう言ったクララの指の所々に絆創膏が貼られているのに、ロービィは今更ながら気が
付いた。きっと、慣れない縫い物で先生役のエレ共々散々痛い思いをしたに違いない・・・だが、今の
ロービィはそれを笑う気にはなれなかった。

「・・・これ。」
「エリーゼ?」

次にロービィにプレゼントを手渡したのはエリーゼだった。赤と白のチェック柄の紙袋をロービィが
開けると、中から出てきたのは小さな毛糸の手袋だった。

「母さんに聞いたの。・・・冬の畑は寒いだろうって・・・」
「これ、一人で・・・?」
「まだ、ちょっと眠い・・・。」

そう言って僅かに微笑んだエリーゼを、ロービィは眩しそうに見つめた。確か、昨日まではウィルフが
実家に帰って来ていたはず・・・きっと、ウィルフが帰った後まさに“寝る間も惜しんで”作ってくれたの
だろう。

(みんな・・・)

もう、限界だった。
参加者たちの心遣いに心が一杯になったロービィは、次のロッタルクに特製の「凧」を手渡された
ところで、ついに嬉しさのあまり泣き出してしまったのだった。

「おいおいロービィ、男の子が人前で泣くなんてみっともないぞ。せめて、みんなのプレゼントを受け
取ってからにしてやれよ・・・ほれ、ファーリルが困ってるじゃないか。俺たちのだって、まだ残って
いるんだぞ?」
「だっ・・・、だっ・・・て・・・。」

ランバルスのからかいを含んだ言葉にも、今は怒る気になれない。ロービィは参加者、そして地竜
一家の面々に向かって深々と頭を下げた。

「みんな・・・みんな、ありがとう。」
「いきなりまとめないでよ。まだ始まったばかりじゃないの!」
「そうそう。これから盛り上がるんじゃないの・・・ねえリタ?」
「もちろんよ、クララ。」

さっきまで口喧嘩が絶えなかった二人が意気投合する横で、得意げな表情を浮かべたランバルスが
両手を広げてみせる。

「よーし、じゃあバースデーケーキのお披露目と行こうか! ふっふっふ、これは俺も手伝ったんだぞ。」
「えー!?」
「ランバルスさんが・・・珍しい。」
「・・・キーニ、毒は?」
「えぇと・・・」
「おい、誰だ今『えー!?』って言ったのは!!」
「日頃、そう言われても仕方ないような行動を取られているからではないのですか?」
「ユイシィ・・・お前な、言わんでもいいことを・・・」
「でも、本当だよね。」
「あはははは!」

こうして、先程までの険悪な雰囲気はどこへやら和気藹々とテーブルの方へ戻って行く面々を
見ながら、ロービィはこの日初めての心からの笑顔を浮かべたのだった。

みんな、ありがとう・・・(アルトさん作画)

(寄り合いをやって・・・本当によかった・・・)

「ロービィ、なにやってんのー?」
「主賓がこないとパーティが始まらないじゃないの!」
「ごめんごめん、今行くよ!」

どこまでも澄み切った青空の下。コーセルテル初の「二番竜寄り合い」はまだ始まったばかりだった。


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