HAPPY BIRTHDAY        4            10  11 

 −4−

「わぁ、楽しそうだねぇ。」

いつも通りのぽやーとした調子のキーニの返事を聞き、ロービィは傍らで回覧板に目を通していた
カディオの方を向いた。

「カディオさん・・・どうですか?」
「ああ、俺も異存はない。あいつらを送り出すのに比べればよっぽど安心してられるからな。」

回覧板にサインし、それをロービィに手渡したカディオは大仰に肩を竦めてみせた。連られて苦笑いを
するロービィ。

「それで、場所と日時なんですけど・・・」
「・・・キーニ、お前の希望は?」
「ううん。特にないよ。」
「そうか。・・・ああロービィ、“特に無し”と書くのはちょっと待て。」
「え?」

回覧板に“希望無し”と書き込もうとしていたロービィは、カディオの声に顔を上げた。

「まさか、ここでやる可能性はないんだろう?」
「え・・・? いえ、誰かの希望があればお願いしようかと思っているんですが・・・」
「・・・・・・。」

ロービィの返答を聞いたカディオは、思わず頭を抱えて溜息をついた。

「お前さん、あいつらがすぐ傍にいるところで寄り合いをするつもりなのか? それこそ大惨事になるぞ
・・・今回は歯止め役もいないようだし。」
「あ゛。」

“あいつら”がいるであろう畑の方を見ながら苦笑いするカディオ。
ちなみに、“歯止め役”とは暗竜を預かるマシェルとメリアのことである・・・さすがの“あいつら”も、
暗竜の怒りにだけは触れないようにしているのだ。

「おい、ロービィ。ちょっと待て。」
「・・・はい?」

回覧板にきっちりと「木竜術士の家は厳禁」と書き込み、それを抱えて後ろを向いたロービィを
カディオが呼び止める。

「二番竜はお前を含めて七人だったよな。寄り合いをやるのは初めてだろ・・・どうだ、みんな参加して
くれそうか?」
「うーん・・・」

カディオの言葉に、ロービィは眉を寄せた。ここまでは順調に皆が参加を申し出てくれているが、心配の
種がなかったわけではない。
しばらくの間考え込んでいたロービィは、やがてポツリと呟いた。

「実は、エリーゼは来てくれるか分からないと思ってるんです。あと、もしかしたらリタも・・・。」
「なるほどな。確かに、あの二人ならその心配があるかもな。」

頷いたカディオは、次いでにやりとするとこんなことを言い出した。

「よし、じゃあこうしたらいい。」
「はい?」
「まずリタだが・・・先にクララのところへ行って参加の約束を取り付けてくるんだ。そして、リタには
『クララも来る』ということを強調してみるといい。」
「はあ・・・」
「そしてエリーゼのところには、他の全員が参加することになってから最後に誘いに行くんだ。そして
『他のみんなは全員来るんだけど』と言ってみろ・・・多分エリーゼも来ると言い出すはずだ。」
「あの・・・どうしてそうなるんですか?」
「お前さんにも、今に分かるさ。・・・そして、最後にマシェルのところへ行って色々と話を聞いてこい。
補佐竜の寄り合いをやってるのはあそこだからな、何か大事なことを教えてもらえるかも知れんしな。」
「あ、そうですね・・・そうします。」
「よし。それと・・・ここから先に水竜術士の家に行くってことになると遠回りだからな、一旦風竜術士の
家に戻って誰かに送ってもらうと早いと思うぞ。・・・俺ができるアドバイスはこれくらいだな。」
「ありがとうございます、カディオさん。それじゃぼく、行きますね。」
「ああ。健闘を祈ってるぞ。」
「はい。」

(ロイも、これくらい素直で真面目だと助かるんだがな・・・)

律儀にお辞儀をし、言われた通りに風竜術士の家へと戻っていくロービィの後姿を見送りながら、
カディオは複雑な表情を浮かべた・・・と、その服の裾をキーニが引く。

「どうした?」
「カディオ、ぼくは何をしたらいいのかなぁ?」
「そうだな・・・。とりあえず、美味い果物でも差し入れてやったらどうだ? それと飲み物だな・・・お前が
作ったものなら、みんなも安心して飲み食いできるだろう。」
「うん!」

大きく頷くと、家の裏手にある温室の方へ駆け出すキーニ。

(やれやれ、後は当日・・・あいつらをどう引き止めておくかを考えなきゃならんな・・・)

残された厄介な課題のことを思い、心底大変そうに溜息をついたカディオはゆっくりとその後を
追ったのだった。


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